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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-150

「…………………………」
 ベルゼビュールによって建物に押し付けられたもう一機もまた、パイロットが気絶したのか動かない。
「……ふぅ」
 ベルゼビュールを立ち上がらせたエリックは、停止したペールIVの腕とバランサーリングを破壊させてからため息をつく。
 数が減った状態で深追いしてきたという事は、少なくともすぐに増援はこないだろう。とりあえずは一安心という所だ。
「さて……」
 とは言っても、落ち着いても居られない。エリックは辺りの警戒を行いつつ、先ほど交戦中に、ベルゼビュールに送られてきていたグレゴリーとのアクセスチャンネルを開く。
「……こちらエリックだ。聞こえるか?」
 ナインの攻撃開始予想時刻まではまだまだあるが、早く手を回すに越した事はないだろう。
『あぁ、お前か。こっちはこれから手薄になっている変電所への攻撃を開始する所だ』
 冗談ではない。
 グレゴリーの返事を聞いた瞬間、エリックは思わずそう呟きそうになった。
これで変電所に攻撃など仕掛けられれば、エリックが今までナビア軍を相手にした意味がなくなってしまう。ナインが即エリックを見限ってしまう可能性すらある。
「いや、ちょっと待ってくれ」
 口をついて出た言葉の続きは、まだエリックの頭には浮かんでこない。
『ん? どうした。問題でも起きたか?』
 グレゴリーが続きを促してくる。が、それに答える事などできよう筈もない。
「……いや……そういう訳じゃなくてな……」
 意味の無い言葉で間を埋めながら、必死に考え。
「住民の避難はどうなっている? 攻撃開始まで間がない筈だが?」
 そして一つの話題を捻り出した。
言ってから、この流れに不自然なところはないかと自問。少なくともエリックは当初からイツアスへの大規模攻撃を警告していたのだから、此処でこの話を持ってくる事に何ら不自然はない筈だ。エリックは自分の発言の裏づけをしながら、返事を待つ。
『あぁ、その事か。住民の避難なら別働隊を動かしてある。なぁに、代わりにお前が変電所の襲撃チームに加わってくれれば戦力の穴は埋まる』
「そ、そうか……」
 ほっとすると同時に、結局変電所への攻撃を止められていない事に気付く。
半ば諦めながらも、なんとか粘ろうとエリックは焦り、苛立って。
「チームへの参加は検討する。ともかく今は、変電所への攻撃を止めてくれ」
 余計な一言を言ってしまった。
『……どういう意味だ? 変電所を攻撃すると何か不都合でもあるのか?』
 グレゴリーの声色に、にわかに不審の色が滲み出す。
まずい、そう思っても既に遅い。
「…………」
 エリックは思わず黙り込む。グレゴリーの不審を拭う方法は、思いつかない
『どうした、応答を……ん、なんだ……?』
だがそんな心中とは関係なく。唐突に、グレゴリー側からの通信が途絶えた。ただノイズだけが、ベルゼビュールのコクピットに残される。
「お、おい!」
 弁解できそうにもなかったエリックは助かったとも言えたが、問題は解決していない。このまま変電所に攻め込まれるような事があってはならないのだ。
こうなってはと、エリックがグレゴリー達の排除も視野に入れて作戦を検討し始めた。そんな時だった。
ふと、モニタのチラつきに気付いた。
思わず思考を置いてモニタに注目する。それはパラパラと舞い降りながら、空中でチラチラと光を反射する。雪原で見られるダイアモンドダストに似た粒子。
雪。そんな印象を受けたのと同時に、エリックはとあるものを想起する。
「まさか………」
 そんな訳はない。充電の完了には五時間はかかると、ナインは言っていた。戦闘開始から一時間も経っていない筈だ。
エリックは頭の中で、想像を否定しようとする。
だが空中を漂う粒子は、明らかに。
「始まったのか……?」
 半ば呆然と呟くエリック。ベルゼビュールのカメラにチラつくナノマシン粒子は、刻々とその濃度を増して行くように見えた。


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