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トシシタノオトコノコ
【OL/お姉さん 官能小説】

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チャリンコに乗ったオウジサマ-1

子供の頃から朝早く起きるのは得意だった。おかげで今は悪天候じゃなければジョギングしてるし、悪天候ならウチの中でヨガやったり。最近の朝の密かな楽しみは、ジョギング中に彼の笑顔を見つけること。あのコンビニ店員さん。きっと夜勤終わって帰るところに遭遇するんだと思うんだけど。朝からあの笑顔を見つけることが出来たらなんか1日幸せな気がする。なんだろう。子供の頃のジンクスみたいな。

今日は彼に会えなかった。昨日の夜もコンビニに寄らなかったから会えなかった。バイト休みだったのかな?特に何曜日は出勤、って決まってるわけじゃないみたいだけど。だからって訳じゃないけど今日は朝からついていない。通勤電車で痴漢に合って一生の不覚なことにストッキング破られるわ、昼にランチ食べに行ったらオーダーしたものと違うものを提供されるわ、仕事のトラブル対応に追われて自分の業務が進まずに予想外の残業になるわ、もうぐったり。あまりの散々っぷりに車通勤の渡辺が

「女性の夜道の一人歩きは危険ですよ。送っていきます」

と言ってくれたけれど、住んでる方向が全然違うし悪いからと断って電車で帰ってきたら酔っ払いの学生っぽい集団が車内で大騒ぎだわで最寄り駅に着いたときには相当ぐったりきていた。

そうだ。こういう時はちょっといいビールを買って帰ろう。今日はあのコ出勤してるといいな。元気わけてもらいたいな。哲さんには言わなかったけれど、お借りしたタオルを返すとき、少しのお菓子と一緒に小さなメッセージカードを添えた。タオルのお礼と、いつも彼の笑顔に癒されている、といった内容で。変なオバサンとか思われたら嫌だなぁとは思ったけれど、恐らくああやって店の外まで追いかけてきてくれたってことは、少なくとも嫌われてはないはずだと図々しく思い込むことにして。

そう思ったらちょっと足取りが軽くなる。でも、ふと感じる違和感。

…もしかして誰かにつけられてる?

少し離れて私と同じスピードで歩く足音。偶然同じ方向へ帰ってるとかそういう雰囲気じゃない。ほら、よく聞くじゃない。たまたま同じ方面に帰ってただけなのに、目の前歩いていた女性につけられてると勘違いされてすごくイヤな思いした、っていう男の人の話。でもそんな感じじゃない。夜道を一人で歩いて帰るのはいつものことだし、今までに怖いだとか危ないだとか思ったことなかったけれど、はじめて怖いと思った。やっぱり渡辺に夕飯でもご馳走して遠回りだけど送って行ってもらえばよかったと今更ながら後悔する。でもウジウジ怖がっているだけなんて性に合わない。あの日、一人で生きていくと決めた以上、自分の身くらい自分で守らなきゃ。思い切って足を止める。バッグから携帯を取り出す。万が一のために。足音も止まった。もう一度歩き始める。足音再び。流石に身の危険を感じた。

「ねぇ、ちょっと」

後ろから肩を掴まれる。やだ、本当に怖い。でも怖がる姿はきっと相手の思うツボ。毅然としろ。しっかりしろ、冬子。

「はい、何でしょう?」

振り返ると20代後半くらいのスーツ姿の男が立っていた。ちょっとチャラい感じ?なんか「オレってカッコイイ」とか思ってそうな雰囲気が伝わってくる。正直苦手なタイプ。

「おねーさん、キレイだね。一緒に飲みに行こうよ」

なんで見ず知らずの男にタメ口で話しかけられなきゃならないんだ?なんか喋り方も気に入らない。オレってカッコイイって思い込んでる超勘違い男キャラの某芸人さんを思い出す。

「いえ、用がありますので失礼します」

アンタと飲みに行くくらいならいつものコンビニでちょっといいビール買って家で一人で飲むほうがウマイわ。

「えー、いいじゃん用なんて。オレと飲みに行こうよ。いい店知ってるんだ」

馴れ馴れしく手首を掴んでくる。しつこい男もキライ。下手に刺激して逆上されても怖いから丁重にお断りするが、頭が悪いのか日本語を理解しないのか、はたまたよっぽど自分に自信がある勘違い野郎なのかなかなか手を話してくれない。クソ寒い中もう5分は無駄に時間が過ぎている。本当に今日はついていないらしい。いい加減頭に来ていた。手にしたままの携帯で警察にでも通報してやろうかしら?と思っているのに勘違いナル男は相変わらずしつこく誘ってくる。ウザイ。ウザすぎる。急所蹴って逃げる?ナヨっとしてる感じからして、超ダッシュすれば逃げ切れそうだ。ランニングシューズ履いてればってこんな時に限ってヒールのブーツだった。ブーツで上手く走り切る自身はないな…

そう思いながらも逃げる機会を伺ってるのに、勘違いナル男は勝手に人の腰に手を回してくる。

「やめてください」

そう言ってもいいじゃん、だとかなんだとか繰り返すばかり。おまけに公園のほうへと誘導しようとしてくる。もう本当にイヤだ。どうしよう。抵抗すればするほど

「オレ、気の強い女の人大好きなんだよねー。そんな女の人を自分の自由にできたときってサイコーじゃない?」

ってわけわかんないことほざいてるし。その時、1台の自転車が通り過ぎた、と思ったら急ブレーキをかけて止まった。

「ねーちゃん!」

自転車の男の子はそう叫びながらこちらに向かって超ダッシュで突っ込んでくる。え?ねーちゃん?私?あ、あのコだ!

「おい、お前うちのねーちゃんに何してんだよ!」

自転車から飛び降りると、そう言いながら勘違いナル男に掴みかかる。コンビニで見るときの温和そうな彼からはイメージできない勢いに勘違いナル男もたじろいだのかなんだかんだ文句を言いながらもようやく去っていった。

「大丈夫ですか?」

緊張の糸が切れたせいか、情けないことに腰が抜けてその場にへたりこんだ私に駆け寄って支えてくれた。

「ご…ごめんね。ありがと…」

自分でも驚くくらい脈が速い。深呼吸して落ち着こうとしてもうまく呼吸ができない。


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