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トシシタノオトコノコ
【OL/お姉さん 官能小説】

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about me : キサラギフユコ-3

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3ヶ月前。残業を終え、いつものコンビニに寄って煙草とビール、疲れていたから珍しくお弁当を買って帰った。普段なら家で温めるからと断るけれど、なぜかその日はあの感じのいい店員さんに温めてもらって。

一人で暮らすには少し広い真っ暗な家。リビングに入ろうとすると珍しく固定電話の留守電のランプが点滅していた。内容を聞く前にナンバーディスプレイで着信を確認して凍りつく。まだ登録したままだった、元夫の実家から何度も着信があったのだ。イヤな予感がする。恐る恐る留守電を再生させると元義妹からのメッセージ。何時でもいいから折り返し連絡が欲しいとの切実な声。最後まで私の味方をしてくれて一緒に泣いてくれて、離婚に反対してくれた彼女を思い出すと苦い記憶がかすかに頭痛を引き起こす。メッセージに残されていた携帯番号をプッシュするのはかなりの勇気が必要だった。

「夜分遅くに申し訳ございません、キサラ…」

「お義姉さんっ」

私が最後まで名乗るのも待たず、彼女は昔と変わらずそう呼ぶと、泣き出した。

「ご無沙汰してます…どうしました?」

「お兄ちゃんが…お兄ちゃんが…」

「え?ウソ…」

元夫が他界した、という。ガンで闘病中、ずっと私に会いたいと言っていた、と。私に謝りたいと言っていたと…兄を許して欲しい、と。離婚成立後は一度も連絡をとっていなかったし、会うこともなかったのに。葬儀は本人の希望で近親者のみで密葬するという。もし許してもらえるのなら、私にも参列して欲しいというのだ。一応場所と日程を聞いて電話を切った。

…私に会いたかった?謝りたかった?なぜ?

大学卒業して就職した会社の直属の上司、それが元夫だった。一回り年上でスラッとしてシュッとした優しい男性。半年ぐらいで告白されて、会社には内緒でお付き合いを始めた。交際1年で結婚して、義両親から郊外のこの家をプレゼントされて、ここで新婚生活を送り始めた。結婚の公表と同時に私は今の職場に転職。仕事と家事との両立は大変だったが、元夫はすすんで家事を分担してくれたし、義両親からの「孫はまだか?」のプレッシャーは胃痛の種だったけれど、幸せな結婚生活を送っていた、と思う。

が、その幸せは1年経ったある日、突如壊される。

あれは、よく晴れた日曜日。2人でリビングでまったりしているとインターフォンがけたたましく鳴った。気の利く元夫が応対してくれたが、雲行きが怪しい。押し問答の末、突入してきたのは退職する際、仕事を引き継いだ派遣社員の女性だった。一緒に仕事をしたのは1ヶ月くらいだったけれど、正直好きになれないタイプのコだと思ったのを覚えている。

「ご主人と別れてください」

そう叫んだ彼女と慌てふためく元夫。

「私のお腹の中にはご主人の赤ちゃんがいます」

勝ち誇ったようにお腹を撫でながらそう言った彼女を見たときは吐き気がした。既婚者でありながら部下に手を出した元夫と、既婚者と知りながら身体を許した彼女を到底許すことなどできず、即離婚を決意、訴訟を起こした。妊婦だろうがなんだろうが容赦などできなかった。

「離婚などしたくない。愛しているのは冬子だけだ」

泣きながらそう土下座して叫ぶ元夫とそれを見て半狂乱になる彼女の姿を思い出す。

「なぜ愛しているのは私だけと言いながらその女を抱いたの?なぜその女のお腹の中にあなたの子供がいるの?」

答えはなく、慰謝料としてこの家と二人から少しの間生活には困らない程度の慰謝料を手に入れて離婚を成立させた頃には心も身体もボロボロになっていた。

それでも負けたくなくて、肩肘張って仕事一筋で生きてきたのだ。元夫と出会った職場はお堅いイメージの職場だったから、左遷されて自主退職に追い込まれたとか、その後あの女と再婚したものの子供が産まれてすぐに離婚しとか、実は彼の子供じゃなかったとか聞きたくなくても入ってくる風の噂に惑わされずに、生きてきたのに…

薄情かもしれないけれど涙は出なかった。やっぱり許せないものは許せない。でも大人だから。憎んでも恨んでも一度は心の底から愛して一生を添い遂げると約束した男だ。深いため息をついてぬるくなってしまった缶ビールを空っぽの胃袋に流し込む。あの感じのいい店員さんが温めてくれたお弁当はとっくに冷めてしまった。

翌朝、麻生さんに連絡して事情を説明する。彼は中途採用の同期で、結婚から離婚の流れも知っている。お悔やみの言葉と私を気遣う言葉、そして仕事のことは心配しないでとの心強い言葉をくれて私は久しぶりに仕事を休んで喪服に袖を通し火葬場へと出向いた。

そこには元義母と元義妹、彼女のご主人とお子さんの姿があった。元義父は数年前に他界されたという。あの女も子供の姿もない。白い棺の中に収められた元夫の頬はすっかりこけてしまっていて辛かったであろう闘病生活が容易に想像できた。火葬を待っている間、元義妹から、元夫から預かったという手紙を受け取った。元義母はずっと私に頭を下げ続けた。元夫は自分の余命が長くないと知ってからずっと私に会いたいと言っていたらしい。でも連絡を取らせなかった、と。離婚のことも、そのことも謝罪し続ける元義母を見て私は初めて泣いた。

「もうご自身のことを責めないで下さい」

火葬が終わり、小さな白い箱に収まってしまった元夫を抱きしめる元義母にそう告げるのが精一杯でその場を後にした。駅へ向かうタクシーの中、元夫が残してくれた手紙を読んで号泣した。運転手さんは

「泣きたいときにちゃんと泣いておきなさい」

と降車ぎわ、優しく声をかけてくれた。火葬場の最寄り駅から自宅の最寄り駅まで、どこをどう帰ってきたのかよくわからない。乗り換えの駅のホーム。ベンチに座って何本も電車を見送ったり逆方向の電車に乗ったり。最寄駅にようやくたどり着いたのは終電間際だった。


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