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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・クルルファータ-35

 まずは、冷製の前菜三種が出てきた。
 配膳が終わると、まずはボスが一種を口に放り込む。
 毒劇物などが混入されていない事を招待主が真っ先に食する事によって示すパフォーマンスは、両世界共通の礼儀作法だった。
 それを見た六人はナイフとフォークを手にし、前菜に取り掛かる。
「どうした?」
 さっとゆがいた野菜のコンソメゼリー寄せをまじまじと眺めている深花に気づき、ジュリアスは声をかける。
「いや……贅沢だなぁって」
 冷凍・冷蔵技術の浸透していない世界でゼリー寄せが供された事に驚いて、深花は言う。
 スモークした鳥肉にハーブを刻んだソースをかけた前菜にフォークを刺しながら、ジュリアスは頷いた。
「まぁ、金はかけてるよな」
 深花はゼリー寄せを口に運ぶ。
「……ん」
 ほど好い味つけのゼリーと野菜がつるりと喉を落ちていく食感は、素直に美味しいと表現できる。
 何かのムースを食べ終えたヴェルヒドが、ボスに視線をやった。
「それで、あんたのような地位にある人間がわざわざ我々と接触を持とうとする酔狂な理由は何なんだ?」
「その前に、少しこちらの事情をお話させていただきたい」
 苦々しい顔で、ボスは言う。
「ちょっと前の話なんだが……お宅のミルフィエルド殿に依頼されて、うちで魔具技師と石工と土建屋を相当数貸し出したんだが」
 フラウをさらった張本人、水色の男・ザグロヴの行方をいきなり示されて、四人は息を飲む。
「用が済んだ途端に機密保持のためとか抜かして、関わった職人全員の首を刎ねちまった。いくらウェルディシュ様方の一員とはいえ、こちらも他都市のボスに対するメンツってものがある。このまま何事もなく済ますわけにゃあいかねえ……ただ、何かをしようにも神機召喚されちまったらおしまいってわけだ」
「ふむぅ……」
 ヴェルヒドが唸る間に、主菜が出てきた。
 大型動物の腰肉をこんがりあぶったものを、使用人が各自の皿に切り分けていく。
 果物の酸味が効いた甘酸っぱいソースをかけた腰肉を一切れ口に入れると、ヴェルヒドは頷いた。
「実は我々も、あやつを捜している所でな」
 ヴェルヒドはそう言ってから、主菜と一緒に出されたワインをぐびりと飲み干した。
「見慣れぬこの四人は、ザグロヴ探索の間の相棒だ。あれでも身内だからあまり手ひどい事はできないが、そこの場所を教えてもらえれば軽はずみな真似をしたあやつをたっぷりと後悔させてやる事を確約する」
「手ひどい事をしないなんて、嘘ばっかり」
 ウィンダリュードが、くすくす笑う。
「こいつねぇ、ザグロヴがしでかしたようなやり口が大っ嫌いなの。お宅の職人さん達を殺してしまった事を、死ぬ寸前まで思い知らせてくれるわよ」
 腰肉一切れに対し三杯はワイングラスを空けているのにけろりとしているので、アルコールには途方もなく強いらしい。
 深花もワインを口に含むが、むっとくるアルコールの匂いに押されて美味しいとは思えなかった。
「無理すんな」
 深花の分のワインを、ジュリアスがぶん取る。
「お前、酒飲まないだろ」
 敵地で酔っ払うなと、その目が警告を送ってきた。
「……ん」
 自分の分のワインをジュリアスがさらりと空けるのを眺めながら、深花は聞き耳を立てて話を詰めていくヴェルヒドとボスを見守った。
 ティトーとデュガリアは食事を大いに楽しんでいる風に見受けられるが、深花と同様に話の成り行きへ耳を配っている。
 ワインの代わりに出されたフルーツジュースを啜っていると、デザートが運ばれてきた。
 皿の上は焼き菓子とアイスクリームの盛り合わせで、また深花は驚く。
「……では、その辺りに建てられているのは確実なんだな?」
 久しぶりのアイスクリームを夢中になってつついているうちに、話がまとまったらしい。
 皿に溶け残ったアイスクリームを焼き菓子で掬っていると、ティトーが小さく笑った。


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