悪魔とオタクと冷静男-17
「あ、あれ?大丈夫ですか…?」
「ほっといてやれ。それよりも早く買って帰るぞ」
「…?う、うん」
佐藤を無視して頼まれた飲み物を選ぶと、それをレジに持っていく。しかしその段階になって初めて、佐藤以外に店員がいないことに気が付いた。
仕方なく佐藤に声を掛ける。
「おい、バカ。ちゃんと仕事しろ」
「……」
だが当然のように無反応。このままでは帰れない。
「あのー、レジ打ちしてくれませんか?」
「はい、すぐにやらせていただきます!」
「……」
すぐさま、意外と慣れた手つきでレジを打ち始める佐藤。
…わかってた。こうなることは十分にわかってた…。
「以上で、六百十八円になります」
「あ、はい」
財布を出し、中を確認するつばさ。
「うわ、千円札一枚だけしかないよ。小銭すら入ってないし」
「普通に生活する分にはそれで十分だ」
「そうかなぁ?急に友達と遊びに行くことになったら?」
「…そんな経験ないから分からない」
「あ、そっか」
「…とにかくだ、人の財布の中身にいくら入ってようと別に関係ないだろ」
「…おい」
「ん?なんだよ」
「その財布…お前のなのか?」
つばさの持っている財布を指差しながら言う。
「そうだな」
「なんでつばささんがお前の財布を…いや、それよりも、なんで休日の朝っぱらから二人で仲良く買い物に来てるんだよ!?」
「気になるか?」
「当然だ!」
「…こっちにも色々と事情があるんだ。気にするな」
「色々と…?な、ま、まさか!?」
驚愕に目を見開く佐藤。
「朝帰りか!?その年で朝帰りなのか!?お前をそんな風に育てた覚えは無いぞぉぉお!」
「…奇遇だな。僕もお前なんかに育てられた覚えは無い」
「ぐはっ、認めん、認めんぞ!きっと何かの間違いに決まってる!うおぉぉお!」
「はいはい…」
勝手に号泣し始めた佐藤を無視して、千円を置くと、店から出ようとする。だが、
「おい!」
「…なんだよ」
「今つり銭を渡すからちょっと待て!」
意外と律儀。だが、店員が客に命令するなんておかしいだろ。立場わきまえろ。
「くっ、三百八十二円のお釣りです…」
「ん…」
手を差し出した僕を無視してつばさに手渡す佐藤。
「あ…あの、オレ…、オレ諦めませんから!それじゃあ!」
それだけ言うと、そのまま店内に走り去る佐藤。
「…ねえ、いっちー。なにを諦めないんだろうね?」
「……」
だが、つばさには伝わっていなかったようだ。
「ま、いいか。次に来たときにでも聞けばいいよね」
「……」
…僕としては、できたら二度と来たくないんですけど。
「ねえ、何してんの?早く帰ろーよ」
「そうだな…」
適当に返事を返したが、頭の中はさっき言われた『二人仲良く』で一杯だった。
いつか、本当に仲良く買い物に出たりできるのだろうか?そうなったら…
「いっちー、早く帰ろうってばー」
「ん、ああ」
先を歩くつばさが僕を呼ぶ。
…どうなるか分からない事など、考えていてもしょうがない。思いを伝えるよりは、今は、一緒にいられるこの状態を大切にしたいと思う。
「早くしないと愛しの遠矢さんに怒られちゃうよ?」
「……」
…と思ったけど、やっぱり伝たほうがいいかもしれない…。
「頑張って目指してね(バ)カップル!」
「……」
…違うっての。こんな調子でも、いつかは僕にも春は来るのだろうか…?
そんな事を考えながら、嫌になるくらい春を感じさせる朝の日差しを浴び、僕達は並んで歩いて行った…。
…………。
…………。
…………結局、家に着くまでからかわれ続けて、ホントに辛かった。いや、マジで…。