悪魔とオタクと冷静男-16
「なに珍しく暗い顔してんだよ」
「だって…」
「もう慣れてる」
「……」
「それに、僕はあんな事を気にするほど繊細じゃないし、さっきは別に不機嫌だったわけじゃないから気にしなくていい」
あまりフォローになってない気もするが、これ以上はうまく言えないので、仕方ないだろう。
「…ごめん」
「だから、気にするなって言っただろ。それに、怒ってたらこうして話なんかしない」
「……」
「分かったらさっさと買って帰るぞ。先輩達が待ってる」
「…いっちー」
「ん、何だ？」
「私が一緒にいると、迷惑？」
「は？…いきなりどうしたんだよ？」
「だって…私といるとき、いつもつまんなそうにしてるし…」
「いや、そんなことはない、と思う」
「無理に私に合わせてるみたいだし…」
「……」
「いっつも自分のことは言わなくて――」
「気にしすぎだ」
つばさの言葉を遮るように言う。
「でも…」
「わがままに付き合うのは疲れるけど、嫌なわけじゃない」
「……」
「それに…騒がしいのも嫌いじゃない。だからいつまでも暗い顔してるな」
「…いっちー」
「勘違いするなよ。いつもと違うと調子が狂うからだ」
「…うん」
自分で言っておきながらだが、恥ずかしすぎる台詞だ。穴があったら入りたい。
だが、つばさを悩ませるよりはマシだ。たぶん。
そうこうしているうちに、目指すコンビニが見えてきた。
店内に入ると、今時珍しい、やる気に満ち満ちた挨拶が。
「お早うございます！いらっしゃ…」
だが不自然な切れ方をしたので、不審に思いその店員の方を見ると、こちらを見ながら驚愕の表情を浮かべていた。
「き、貴様は…！」
しかもそれだけでは飽き足らず、ワナワナと震えながら指を差してくる。
「…失礼だな。誰だお前」
「くっ、どこまでもふざけたやつだな！」
なぜか見知らぬ店員に怒られていると、つばさが尋ねてきた。
「…あの人、いっちーの知り合い？」
「いや、まったくの初対面だ」
つばさとのやり取りが聞こえたのか、さらに驚く店員。
「この…！忘れたとは言わせないぞ！貴様のせいでオレは…」
「忘れた」
「な…！じ、冗談、だよな？」
「本気だ」
「嘘だろ…。そうだ！つばささん、あなたなら分かってくれますよね!?」
…こいつ、なんでつばさの名前を知ってるんだ？
名指しされたつばさはと言うと、困ったような笑顔を浮かべながら、
「えーっと…」
それだけ言って、すぐに沈黙する。
「……」
「…知らないじゃないか」
「そんな…オレは片時も…」
ん？この流れ、最近どこかで…。
「だいたい、昨日の今日なのに…」
昨日？そう言えば何かあったような…。
『あ…！』
つばさも思い出したのか、同時に声を上げた。
「確か…佐藤くん、だよね？」
「は、はい！その通りです！」
バッと顔を上げ、さっきまでとは打って変わって明るい表情で言う。
「どうだ！ちゃんと記憶にあったぞ！」
これだけのことなのに、やけに誇らしげに言う佐藤。
「…初めは分からなかったじゃないか」
「ふん、たまたま思い出すのが遅れただけに決まって――」
「うーん、昨日って言わなかったら分かんなかったかも」
「なっ!?」
さり気なくひどい言い方をされ、がっくりと膝をつく佐藤。
「…つばさ、ストレートすぎ」
「え？あ、あれ、ごめんなさい…。えっと、その…覚えるほどの事じゃなかったし…」
「ぐはっ！」
「それに、なんだか特徴なくて…」
「……!!」
追い打ちコンボ、さらに会心の一撃。
膝をついたまま固まる佐藤。しばらくは再起不能だろう。