夜明けのシンデレラ(♂)-9
ようやく、待ちに待った週末の金曜日、午後7時。
そろそろ、智哉からの電話が来る頃だ。
今日の夕飯はシチュー。
12月も半ばを過ぎて、冷たい風が吹き付ける中をバイクでやって来る智哉に温まってほしくて、準備もばっちり整えた。
…いい歳して何を浮かれてるんだって、自分でもそう思う。
「でも、幾つになったって待ち遠しい気持ちはなくならないよ」
受けとる人のいない空間に、私の言い訳じみた自己主張が吸い込まれていった。
――Pi-Pi-Pi…
「もしもし〜」
「あ、姉ちゃん!?俺、央太」
なぬぅ!?
智哉かと思って、ちょっと可愛く出てみりゃ…。
「何の用事だ、弟よ」
「なんだよ、その切り替わりっぷり。ところでさ、今度の日曜日って暇だろ?」
「……………」
瑠璃子といい央太といい、どうして、どいつもこいつも私の日曜日は暇だと思ってるわけ?
…暇だけど。
「何で?」
「いやぁ…俺、会社の上司の娘さんと見合いすることになってさぁ」
「ふ〜ん…って、み、見合い!?」
おいおい…。
人の容姿をとやかく言える立場にないが、我が弟は『ネアンデルタール人』によく似ている。
でも、本人は某有名イケメン俳優さんに似てると思っている。
「だ、大丈夫なの…?まだ進化の途中なのに」
「…何がだよ」
「…………」
言えません。
「で、本題なんだけど。その時、一緒に見合いに行ってほしいんだよ」
「何で!?父さんや母さんは?」
「親父、昨日からぎっくり腰。お袋、その看病」
「ちょっ、本当に!?」
…頑固な父さんのことだから、また何事か無理したんだろうなぁ。
「――了解!あんた一人じゃ心許ないもんね」
「サンキュ!じゃあ、明後日10時にRホテルのロビー集合でよろしくな〜」
ご機嫌なトーンで、電話は一方的に切れた。
…さては、相手のお嬢さんは美人だな?
とにもかくにも、弟の人生一大イベント。
私は、うっかり予定を忘れないようカレンダーに書き込んだ。
「――お見合い、かぁ…」
『お見合い』も、その後に続くかもしれない『結婚』も。
今の私には、遠すぎる夢のまた夢。
…ごめん、父さん母さん。
あなた達の娘は、許されない恋をしています。