夜明けのシンデレラ(♂)-8
――その後20分間、瑠璃子は怒濤の勢いでしゃべり尽くした。
「…つまり!そのゲゲゲ王子がかっこいいからってことね?」
「だから〜、ゲートボール王子の元谷 透悟くんですってばぁ」
なんでも…最近巷で大人気だという『ゲートボール王子』なる人物にハマった瑠璃子は、近所にあるゲートボールチームに入って、毎週日曜日の練習に参加したいのだという。
「あんたさぁ、この前はキムチ王子だかにハマってなかったか?」
「キムチ王子、お国に帰っちゃいました」
「あぁ、そう…」
あ、頭痛い…。
「ゲートボールって、お年寄りのスポーツでしょ?それの王子様って…あんた、幾つのじぃさんに惚れたわけ?」
煙草の灰が落ちても気が付かないほど、唖然としている比呂美。
「ギャー!透悟くんはおじぃちゃんじゃないです。まだ27歳ですよ〜」
片や、ムンクの叫びみたいな顔をしながら否定している瑠璃子。
…恋は、幸せな結末には遠すぎるけど、こうやって、女同士で笑える時間の持てる私は、案外幸せなのかもしれないな。
「比呂美先輩はだめですかぁ…。笑ってばっかりの桜子先輩は?」
「…う〜ん。ゲートボール面白そうだけど、私も、80歳の王子様の追っかけはできないかなぁ」
「ギャー!桜子先輩まで。透悟くんは先輩より年下ですってばぁ。おじぃちゃんなのは、東日本ゲートボール協会長の奥先生ですよぉぉ…」
瑠璃子の雄叫びを背中に聞きながら、私と比呂美は屋上を後にした。
さぁ、たくさん笑ったし、午後の仕事も頑張りますか!!