夜明けのシンデレラ(♂)-6
――それが、決定的になったのは…梅雨もようやく明けた7月のある日だった。
これから、日曜日も早朝から用事ができてしまった為に、土曜日の夜は家に帰らなきゃならないと告げてきた彼。
金曜日の夜は一緒に外食。
土曜日は外でデート。
日曜日は私のマンションでのんびりしよう。
これが、二人で決めた私たちの週末だったのに…。
「――何の用事?」
地の底から搾りだしたかのような自分の声に、我ながらオンナって怖いと思いながら、それでも私は、智哉に問いただすことをやめなかった。
「ちょっと…」
困ったように俯く智哉。
それが、なおさら私をイライラさせた。
答えなんて、決まってるじゃないか。
「はっきり…言ってよ」
涙が、勝手に頬を伝った。
それでも、智哉は何も言わなくて。
(…男なんて、みんなズルい生き物だ…)
「――知ってるよ、私」
「え…?」
弾かれたように、智哉が顔を上げた。
「奥さんの…用事なんでしょ」
沈黙の中、零れた涙が床に落ちる。
「桜子さん…知ってたんだね」
黙っててごめんね…と、智哉は小さく呟いた。
「――でも!いろいろ言われることがあるかもしれないけど、俺は、本当に桜子さんが好きだから!」
「――――――……」
『好き』だけじゃ、どうにもできないことだってあるんだよ…って、心の中で何回も叫んだ。
…それなのに。
抱きしめられて、キスされて。
手離したくなかった。
この気持ちを。
この温もりを。
この――オトコを。
そうして、選んだ。
『不倫』という名の、背徳な愛のカタチ。
「…比呂美」
ボロボロと崩れ落ちるクロワッサンと格闘しながら、私は、隣で焼きそばパンをくわえてる親友に呼び掛ける。
「私ってさぁ、浅ましいのかな?」
「なんで?」
「誰かを…奥さんを傷つけることしてるって、わかってる。――でも、智哉が欲しい。離れたくないよ」
ちょっと癖のある髪。
長い指。
私を呼ぶ声。
抱かれる度、募る愛しさが止まらない。