夜明けのシンデレラ(♂)-21
「――こちらです」
高級感溢れる、Rホテル内6階にある料亭。
通されたのは、そこの奥座敷だった。
襖が静かに開かれる。
「桜子さん!」
「智哉…」
広々として明るい座敷の中には、智哉と先程の『奥先生』と、小柄な初老の女性がいた。
「――ごめんね、急にあんなことになっちゃって…。大切な話をしてたのに」
そう言って、智哉は頭を下げる。
…そう言えば、プロポーズされてる最中だったんだっけ。
あぁ、一生に一度の記念日になるはずだったのに…。
でも、どっちにしろ重婚だったけど。
「――桜子さん、紹介するね。こちらが、いつも話していた奥さんと、その奥さんの梅子さん」
「…………はい?」
(お、奥さんの奥さんが奥さん!?)
「ほら、俺をいつも日曜日に連れ回す御本人だよ」
「いやいや、桜子さん、いつも申し訳ない。せっかくの休日に年寄りの相手をさせてしまっていて。だが、こいつは人気あってねぇ。智哉が来ないと、機嫌の悪くなる御婦人連中がたくさんいるんだよ」
「またそんなこと言って。お相手するのが面倒くさいから、俺を連れていくんでしょ」
アハハ…なんて、とってものどかで和やかな雰囲気…なんですけど。
――ちょ、ちょっと待ってよ。
これって…。
「あ、あのね、智哉。つかぬことお伺いしますが、智哉の言ってた『奥さん』て、もしかして…」
「え、俺の奥さんは桜子さんだよ。…な〜んてね!だから、ここにいる奥先生だってば。――えっ、ちょ、ちょっと桜子さん!?」
智哉の声が、遠くなる。
あぁ、全身の力が一気に抜けていくわ…。
でも。
…そうか。
そうだったんだ。
「まぁったく、何をしとるんじゃお前はっっ!」
「すみません…」
「桜子さんもじゃ!勘違いにもほどがある!!」
「ごもっともで…」
「お、お父さん!桜子さんはまだ智ちゃんのお嫁さんではないのよ!」
オロオロする梅子さんをよそに、怒られまくりな私たち。
大爆笑の央太。
時は遡ること、数分前。
衝撃の真実が発覚し、ショックで私が気を失っていた間に、央太から『どうやら、姉は智哉さんに奥さんがいると思ってたみたい』と説明してくれたそうだ。
それに対して、今度は智哉が卒倒寸前だったらしい。