夜明けのシンデレラ(♂)-19
「キャーッ!!」
突如、耳をつんざくような悲鳴が上がった。
次の言葉を告げようとしていた智哉も、その言葉を待っていた私も、驚いて声がした方向へと目を向ける。
ラウンジ入口付近。
そこに――。
おばちゃんが、三人。
別に、珍しくも何ともない光景…なんだけど。
なぜか、智哉を凝視してるんですけど!!
「智哉…知り合い?」
「あ、いや…」
「…透悟くんがいるわよぉぉぉーっ!」
歯切れの悪い智哉の返答にかぶせるように、まるで珍獣を発見したかのようなおばちゃんたちの大声が、再び辺りに響きまくる。
(…透悟?)
誰ですか、それ?
「まずい…!」
「――智哉っ?」
慌ててダウンジャケットで顔を隠そうとした智哉に猛牛…もとい先程のご婦人たちが文字通り『襲い』かかって来た。
「うわっ!」
「透悟くーん!」
「王子〜!!」
(な、何なのこれっ!?)
おまけに。
「ね、ちょっと!元谷 透悟が来てるって!」
「うっそ!?マジ見る!」
「えっ、王子いるの!?や〜ん、触りた〜い!」
後から後から次々と、私の智哉に襲いかかる老若女女の大群がっ!
「えっ、ちょっと何がどうなってるの!?つーか、『透悟』じゃなくて『智哉』だから!」
黒い人だかりから呆気なく弾かれた私の遠吠えが、負け犬のごとくむなしくこだまする。
「――やっぱり…」
「何よ、央太?」
私と同じく、あっという間に蚊帳の外の人間となった央太が、意味ありげに呟いた。
「姉ちゃん、智哉さんって『元谷 透悟』だよ」
「だから、それって誰――…」
突然、頭の中に数日前の光景が浮かんだ。
――あの時、瑠璃子は何て言った?
「ゲートボール…王子…」
「お、知ってんじゃん…って、じゃあ今まで気が付かなかったのかよ!?」
央太の声が、遠くに聞こえる。
…智哉が、巷で話題のゲートボール王子?
そんな、だって、じゃあ『あの人』は誰なの?
『智哉』だと思っていた愛しい人が、本当は『透悟』なのだという。
智哉、あなたは一体――…?