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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-77


「…でも確かに…激しく不安ですけど」
「ひ、ひよちゃん…そんなに信用無いか、俺は…」
「…自分の胸に手を当てて、聞いてみたらどうですか」
 聡は、おもむろに目を閉じると、箸を置き、言われた通り己の胸に手を当てた。
「熱い鼓動《ビート》を感じる…信用に足る音《サウンド》だ…!!」
「…私には理解不能な理屈で、勝手に納得するのはやめてください…」
 妃依は呆れた様な上目遣いで聡を眺めながら、味噌汁を啜った。
「や、やっぱり、信じてはもらえない…か?」
 事実、そそのかされた前科があるので、どうにも押しは弱かった。
「…でも…構わないと言ったのは私ですし…例え『そう』なったとしても…それは、なった時に考えますから…だから」
 困った様な表情の聡を見て、妃依は『少し、苛め過ぎたかもしれない』と、苦笑混じりに思いながら、
「…今日は、泊まって行ってください」
 今度は素直に、そう口にした。


 窮地に立たされた燐が危機回避の為に思い付いたのは、この場において最高の決定権を持つ者の興味を、別の対象に逸らす事だった。
「お、お姉様…!! そう…た、確か…先日、け、KYシリーズの…六号機をお造りになられたと、お聞きしましたが…!?」
 迫り来る悠樹によって部屋の角に美咲共々追い詰められていた燐は、部屋の中央で成り行きを眺めている琴葉に向かって、そう叫んだ。
「そう言えば、この間そんな話もしたわね」
 答える琴葉の口元には、何とも形容し難い笑みが浮かんだが、しかし、燐はそれを好機と見た。
「出来れば是非…拝見したく…存じるのですが!! い、今すぐにでも!!」
「ええ、それは構わないけれど…悠樹?」
「え? な〜に? 琴葉姉さん」
 二人までの距離を残り1m弱残して立ち止まり、悠樹は振り返りながら答えた。
「私が言った手前ではあるのだけれど…少し、燐を借りても良いかしら、ね」
「うん、いいよぉ」
「その代わりに、雇われメイドは気の済むまで好きにするといいわ」
「は〜い」
 一瞬前まで自分の運命共同体だと思っていた後輩は、土壇場で最悪の事態を強引に回避するという荒業を見せ、その結果、自分に降りかかる筈だった最悪の事態は最凶の事態へと変貌を遂げてしまった。この遣る瀬無さ、憤りを一体何処に向ければ良いと言うのだろうか…と、深い絶望に陥っていた美咲は、これが遊佐間家での長いアルバイト生活の、まだほんの一日目だという事に思い当たり――美咲はもう、考える事を止めた。


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