非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-64
「そ〜です!! マウス!! トゥー!! マウス!! マスターはソレを!! 私はこの除細動機能によって心臓マッサージを行ないます!! OKですか!?」
「…」
無言で頷く妃依。状況が状況だけに、恥ずかしがっている場合ではないと、すぐに悟ったらしい。
「それでは!! これ以上放っておくと、本気で弟様が帰らぬ人になってしまう恐れがあるので!! 早速始めますよ!? マスター!!」
「…は、はい」
その時の妃依の心に在ったモノは、悲哀か、焦燥か、恐怖か、それとも淡い恥辱か――それは、妃依自身にも解らない事だった。
吉祥が目覚めてから間も無く、その異変の兆候は現れていた。
「…まさか…」
発した本人も聞き取れない程の小声で、茉莉は思わず呟いていた。
「ん…? この感じって…『アレ』っすよね…?」
気を取り戻したばかりの吉祥は、玉石の上に胡坐を掻いたままで聡の背後、『此方』の先に視線を向けて言った。
「アレ? アレってなんですか?」
「さ…聡さんには、特に必要の無い…モノですよ…? ふふ…」
微妙に引き攣った笑顔で答える茉莉。
「え? それってどういう…」
「…まあ、今に解るっすよ」
聡の疑問に答えようかとも思った吉祥だったが、茉莉からの口封じを恐れ、そうとだけ答えておいた。
「そ、そうそう、聡さん!! 私、手相占いが得意なんですけど、手相を見せていただけませんか?」
先程から態度のおかしい茉莉が、取って着けた様な、あからさまに怪しい事を言い出した。
「い、嫌ですよ…また、何かする気なんでしょう?」
「まさか、そんな事は。それとも、聡さんは私を信じてはくれないんですか?」
「…信じろってのは、無理があるんすよね…」
茉莉には聞こえないように、ボソリと呟いた吉祥だったが、
「吉祥さん? どうしたんですか? 手相を見て欲しそうな顔をして」
「えっ!? そ、そんな顔してな…」
「そうですかそうですか。ええ、特別に見て差し上げますよ? 見易いように『刈り取って』から」
「じじじ、冗談じゃねえっすよォォォ〜ッ!! うわあああぁぁぁぁぁ…」
涙を振り撒きながら、一目散に対岸まで走り去って行く吉祥。それを見送る茉莉の表情には、冷え冷えとした笑みが張り付いていた。
「さてと、吉祥さんも居なくなってしまいましたし…聡さん?」
「はっ…!! はいっ!?」
『まずい…俺も逃げねば』と、吉祥が逃げる様を見ながら、静かに後退していた聡だったのだが、当然、茉莉が振り向く方が早かった。
「さあ、手相を見せてくださいな」
後退っている途中だった聡は、間抜けな格好のまま固まり、迫り来る茉莉を眺めていた。
(どうすればいいんだ…俺は…)
?:素直に茉莉さんに手を見せる
?:何とかして抗う
?:おもむろに脱ぐ
(?は…何となく心惹かれるような気もするが…だ、駄目だ…これだけは選んじゃいけねぇ。?は…実際、選びたいが…ヘタに抵抗したところで、茉莉さんに勝てる気がしないし…やはり…やるしか、ないのか…?を…)
一見、冷静なようでいて、その実、大いに錯乱していた聡は、静かに目を瞑ると、己のベルトに手を掛けた。
…カチャ、カチャ…ジィィ…
…ゴソゴソ…パサッ…
「ボクの負けです、茉莉さん…」
手早く全ての着衣を脱ぎ捨てた聡は、諸手を広げると、聖人君子の様な笑みを浮かべながら、そうのたもうた。