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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-56

「ハァァァァァァァアッ!? 何ィィィッ!?」
 馬鹿な、そんな馬鹿な、死んだ!? 俺が死んだ!? 何故!? どうして!?
「ええと…資料によりますと…わぁ…『死亡者本人の吐瀉物による窒息死』…物凄く珍しい死に方ですね…これ、自殺ですか?」
 何処からとも無く取り出した『遊佐間聡に関する死亡報告書』を眺めながら、茉莉は頬に手を当て、小さく驚きを表した。
「一体、何の事…あ…」
 その時、聡の脳裏に、自らが気を失う直前の記憶が蘇ってきた。
 高速回転する椅子と俺とアブリスちゃん。激しい嘔吐感。顔面を覆い尽くすセロテープ。そして…。
「あ、あんな事で…あんな事で死んだのか…俺は…あああああ…っ!!」
 死因、己のゲロにまみれて窒息死。死後の世界でも、きっと笑いのネタになりそうな死に方だ。
 嫌だ…死んでも死に切れない…。
「まあ、死因に関しては置いておくとして…今は、川を渡ってしまいませんか?」
「川…? 川って、それ…まさか、三途の川…?」
 よく考えてみれば、ここが余りにも現実感の無い風景だと言うことに気が付く。さっきまでは寝惚けていた為か、ちっとも思い当たらなかった。
「そんな…今更『俺は閃いちまったぜ』って感じに言われましても…反応に困ります」
 困った顔で口に手を当てている仕草と、言っている内容のギャップが激しい。
「な、何で渡らないといけないんですか!? それって、渡ったら、完全に死んでしまうんじゃ…!?」
「ええ…ですから、いつまでも中途半端な、半死半生の彷徨う霊魂のままで居ないで、ぱぱっと死んでしまいませんか?」
「…もしかして、茉莉さんって…死神か何か…?」
 ここまで積極的に死なせようとするからには、死神か、またはそれに属する何かであるような気がした。良く見れば、服装は髪の白とは対照的な黒一色と、実にソレっぽい。
「死神だなんて…あんまりです。私、これでも一端の公務員なんですよ?」
「こ、公務員…?」
 こんな、文字通り現実離れした場所で、そんな世俗的な単語を耳にするとは思わなかった。
「ええ『常世管理局黄泉路案内課長』って、肩書きなんですけれど…」
「へ、へぇ…そう、なんですか…」
 いよいよもって如何わしい。
「あ…でも、皆さんからは何故か『霊魂殺しの茉莉』って呼ばれています…オカシイですよね? この呼び名」
 心底不服そうにそう付け加える。
「いや…かなり的確な二つ名だと思いますよ…」
「そうですか? 私、切った張ったは苦手なんですけれど…」
 恐らく、そういう意味ではない。
「と、とにかく、あの…茉莉さん、川を渡るのは少し待ってもらえませんか?」
「えぇ…どうしてですか…? 渡ってもらいませんと、私、帰れないんですけれど…」
 そんな、有りがちな勧誘の口説き文句を言われても困る。命(?)が掛かっているのだから、なおさらだ。
「第一、俺は本当に死んでるんですか? 本当に死んでるなら、俺の意思とは関係無しに川を渡ってるんじゃ…?」
 聡としては、時間稼ぎに適当に聞いたつもりだったのだが、それを聞いた茉莉は、心底悲しそうな表情になり、
「ちっ」
 と、口を尖らせ舌打ちをした。
「い、今の、あからさまなリアクションは何ですか!? やっぱり、俺、完全には死んでないって事!?」
「一般的には…確かにそう言えるかもしれませんけれど…私的には、あれは死んでいると言っても差し支えはありませんよ…? ええ、もう、たっぷり死んでますね」
「俺が差し支えますって!! そんな、勝手な主観で俺を殺さないでくださいよ!!」
「仕方ないですね…そこまで仰るのなら、少しは聡さんの意見も聞きます…」
「す、少し?」
「そうです、あくまでも最終的には川を渡っていただきませんと、今月、お財布が寂しくて…私、公務員なのに、お給料が歩合制なんですよね…」
 酷く生々しい話である。黄泉の国にも幻想などは一片も無いということだろうか。


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