非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-45
(…降りた方が、いいかな)
と、妃依が降りる事を宣言しようと思ったその時、
「えっと…わたくし、降りさせて頂きます…」
先駆けて燐が降りてしまった。
(…今、燐ちゃんが私のカードを、ちらっと、見た…気がする…)
つまり、自分のカードは、燐が降りる要因となったという事であろうか。
「勝負、しても良いかしら?」
琴葉が、美咲と妃依に確認するように言う。
「私は勝負しますが」
「…じゃあ…私も、そうします」
降りる降りないの狭間で右往左往していた妃依は、結局、美咲の決定に引きずられる様な形で、勝負をする事にした。
二回戦の結果――勝者、美咲(J)。敗者、妃依(5)。
その罰ゲームによって、現在、妃依の頭部には、猫耳が付いたカチューシャが据えられていた。
「…これ、取ったら駄目なんですか」
妃依は、頭に不自然に生えた耳を触りながら、至極不服そうな声音で、勝者である美咲に問うた。
「当然だろう。私など、罰ゲームでもないのにこの様な服を着ているのだからな。その程度で不満を漏らされては困る」
と、巫女服の袖を掴んで、肩をすくめる仕草をする。
「そう…やっぱり、気に入らなかったのね…? 巫女服」
手元で弄んでいる10のカードを見つめながら、琴葉は嘆息しつつ呟いた。
「いっ、いえっ…!! そういう訳では…!!」
「別に、構わないのよ? それが気に入らないというのならば、裸でも、ね」
「心の底から気に入っております!! これ以上の幸せはありません!!」
半泣き状態で勢いよく立ち上がりながら、心にもない事を叫ぶ美咲。
「そう…なら、良いのだけれど…フフ」
そんな美咲の姿を眺めつつ、琴葉は不敵に微笑んだ。これでは、誰が勝者なのか解らない。
「…」
天井を仰いで放心している日給五万の先輩が、初めて憐れに思えた妃依であった。
『もう、やめにしないか…』
第五回戦の罰ゲームが終了した時、遂に、セロテープまみれの聡の口から、その提案が出た。
「…確かに、この辺でやめておいた方が…いいと思います」
二回戦以降の三回の勝負の結果、三回戦では再び聡が、燐からの罰ゲームによって今度は椅子に縄で縛り付けられた(これも、映画の影響らしい)。四回戦では燐が、琴葉からの罰ゲームによって、下着姿にされた(それを見る事の出来ない聡は、心の中で血の涙を流した)。そして五回戦、どこまでも不運な聡が、アブリスからの罰ゲームによって、額に『変態』と書かれてしまった(ちなみに、アンファングの提案である)。
既にインディアンポーカーどころではない格好にされていた、怪人セロテープ男は、見る事の出来ない自分の今の姿を想像して、まともな人間だった頃を想い、セロテープの隙間から涙を垂れ流しながら終了の提案をしたのである。
「そ、そうですね…少々、肌寒く感じますし…この、格好は…」
夏場とはいえ、非常な軽装にさせられていた燐は、羞恥心も相まって、胸を抱くようにしてソファーの上で縮こまっていた。
「時間も…そろそろ夕食といった所かしら、ね」
時計も見ずに呟いた琴葉の腹時計は、グリニッジ標準時間並みに正確だった。