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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-24

『夏休み、か…財布も心許ないからな…私はバイトをしようと思う』
 休み前、『夏休み、何するー?』と、香奈から問われて、美咲は少し考えてそう答えていた。
『給料がやたらと良いバイトを見つけた…? む…それは、どんなバイトなのだ?』
 そして後日、美咲は、香奈が見つけてきたという怪しげなバイトに思わず食いついてしまっていた。美咲の懐具合は、それ位切迫していたのだ。
『家政婦…? つまり、メイドか』
 メイドという響きに、琴葉製作のエキセントリックなアンドロイドを思い出してしまい、自分で言って少し引いてしまったが、家政婦としての仕事ならば滞りなく出来る自信が、美咲にはあった。
 依頼主は、海外に住んでいる夫婦だった。子供を日本に置いて行ったため、その子供の生活の補助を、という事らしい。
『正直、乗り気では無いのだが…コンビニや喫茶店よりは、他人と顔を合わせる頻度が少ないのが魅力的だな…』
 もちろん、『子供』という見知らぬ人物と必然的に顔を合わせる事になるのは仕方の無い事なので、そこは慣れるしかない。
『電話で話した限りでは、とても人の良さそうなご夫婦だった。娘さんと息子さんが、二人でマンション暮らしをしているらしい』
 そして、着々と話は進み、マンションの住所、暗証番号、部屋のスペアキー等、必要な物は郵送で送られて来た。
『私も、本腰を入れるために、メイド服を着て行こうと思うのだが…どうだろうか』
 それを聞かされた香奈は『わー、本気だねー、うんうん、ぜひそうしよー』などと、無責任に賛成したものだから――
「う…むぅ…っ」
 初仕事となる今日、美咲は指定されたマンションへと、自前のメイド服を着用して向かっていた。
 距離が近かった上に、朝五時半という事もあり、『大丈夫だろう』と、高をくくっていたのだが、大なり小なり目立つことには変わりなかった。
「コートを羽織ってくればよかったな…」
 早朝マラソンをしている中年男性や、新聞配達の少年に凄い目で見られている事を自覚し、美咲は恥ずかしさの余り、手で顔を覆って小走りでマンションへと急いだのだった。


「お、お邪魔します」
 何度インターホンを押しても応答が無かったため、仕方なく暗証番号を入力し、直接部屋までやってきて入り口のドアを数回に渡りノックしたのだが、やはり応答は無かった。それで『まさか、事件か…?』と、不安になった美咲は、鍵を開けて中に入ることを決意したのだった。
「この度、この家で働く事になりました、坂上美咲という者です…」
 このままでは不法侵入者と間違われてしまう、ふとそう思い、一応そう言っておいた。
「だ、誰か、居ないのですか」
 少しだけ大き目の声でそう言うが、返答は無かった。だが、確実に人の気配はあった。
「ええい…仕方ない、上がらせて貰おう」
 恐らく居間へと通じていると思われるドアのノブを掴み、喉を鳴らし、深呼吸をして、美咲は一気にドアを開け放った。


 玄関の方から聞こえてきた声によって、妃依は目を覚ましていた。
「…ふぁ…誰、だろ」
 眠気で重い目を擦り、背もたれに寄り掛かって背伸びをした。
「眠い、眠い…眠い」
 聡は、まだこの状態で意識を失っていた。
「…せ、先輩、大丈夫ですか」
「眠い、寝る、俺寝る…」
「…うわ…寝てる、んですか…」
 寝ている割には、やたらと目を見開いており、何処と無くイッちゃってる感じがしたが、努めて深く考えない事にした。
 バンッ!!
「…っ…」
 いきなりドアが開かれて、その音に驚いた妃依だったが、その中から現れた人物を目撃して、妃依はひどく困惑した。
「…え、美咲、先輩…ですよね」
 ここに来る可能性のある人物ではなかったし、何故かメイド服を着こなしていた。見間違いではないかと、一瞬自分の目を疑ったが、依然としてメイド美咲はそこに存在していた。


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