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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-19


「…興味が無い訳じゃ、ないですけど」
 背が高くなりたいのは事実だったが、琴葉の機械で、となると、やはり臆してしまうのだった。
「大丈夫よ、とても安全だから」
 琴葉が言うと、まるで導火線に火の付いたダイナマイトの説明に聞こえるから不思議だ。
「…それ、どんな機械なんですか」
「そうね…あえて名付けるなら『大口径ロングレンジシークレットブーツ』とでも言えば解り易いわね」
 また物騒な名前だった。実物を見るまでも無く、靴底から何か発射しそうな勢いだ。
「…解決方法が、すでに後ろ向きなモノだと言う事は概ね理解出来ましたけど…どうして、大口径でロングレンジなんですか」
 あえて聞く。琴葉の事だから、きっと自分の予想を悪い意味で裏切ってくれるに違いないと思ったからだ。
「ヘクセン用に作って、結局実装しなかったショルダーキャノン砲が元になっているからよ」
 実にツッコミどころ満載な答えだったが、妃依は努めて自分の中の『つっこみたい気持ち』を押さえ付けてさらに問うた。
「…そんなに長かったら、秘匿性がゼロなのでは」
「伸縮性を持たせてあるから、靴底の厚さが2cmから1mまで自由自在よ。それと、最長の状態でも扱える様に、ジャイロバランサーを搭載してあるから…」
「…あの、見せてもらっても、いいですか」
 説明が長くなりそうだったので、話の腰を折るついでに、そう頼んでみた。
「良いわよ。ちょっと待って頂戴…ヘクセン、ちょっと来なさい」
 と、琴葉は腕時計――琴葉に言わせるならば、対KY-05用指令通信機一体型万能腕時計――に語りかけた。が、反応が無い事に首を傾げた。
「おかしいわね、ヘクセンの反応が無いわ…脱衣所にいる事は確かなのだけれど」
 位置情報も正確に表示されているようだった。それを聞いた妃依は動揺を表し始めた。
「…あの…倒しました…私が」
 妃依は正直に、ヘクセンと聡に風呂を覗かれそうになった事を琴葉に話した。
「ふぅん、我が不肖の弟も覗こうとしていたのね」
「…はい、ついでに倒しました」
「自業自得だわ」
 やれやれと、琴葉はベランダの外に視線を落とした。
「でも、ヘクセンが起動していないとなると『大口径ロングレンジシークレットブーツ』は、簡単に見せることが出来ないわね…ヘクセンの中にしまってあるから」
「…構いません…そこまで見たいわけではないので」
 それに、たとえ見せられても、履きたいとは思わない。
「そう…それはそうと、妃依」
「…はい」
「ベッドだけれど、聡の部屋のを使って頂戴」
「…あ…はい…って、そうなると聡先輩はどこで寝るんですか」
「ソファー、もしくは床ね」
 姉に命令されて、嫌々ながらも床で寝る聡の姿を想像してみると、それは妙に現実感があった。
「…何だか、少し可哀想ですね」
 覗かれそうになった事実すら、ひとまず捨て置ける程に、妃依は聡を不憫に思った。
「哀れに思うのなら、一緒に寝てあげると良いわよ、フフ」
 妃依は一瞬、それを想像(妄想)してしまった。思わず顔を押さえる。
「…そ…それは…ちょっと」
 夜景へと目を逸らし、ぼそぼそと呟く。
「私が居るからと言って、遠慮する事は無いのよ? 若いのだから」
「…で、ですから、私は、別に…そんな…」
 宿泊にあたって、何も期待していない訳では無かった妃依だったが、こうも、どストレートな事までは考えもしなかった。
「要りようなら、痛み止めと避妊薬をあげるけど?」
 言って琴葉は、二種類の錠剤のシートを取り出した。
「…要りませんっ…と言うか、どうしてそんな物持ってるんですかっ…」
「薬だったら、一通りの物は持ち歩いているから、ね。覚醒効果のあるモノや、麻酔効果のあるモノも持っているわよ」
 今度は小さな袋に入った複数の白い粉を取り出した。明らかに危ないモノにしか見えない。
「…それは…色んな意味でまずいんじゃないですか…犯罪ですよ」
 少し引き気味の妃依の脳裏には『高校生、覚醒剤所持!!』という見出しの新聞が飛び交っていた。
「そうでもないわ。ただのカフェインとフルニトラゼパムだもの」
 それを聞いて、妃依は脱力してしまった。


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