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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-18


「ああ、なるほどな」
「サラウンドスピーカー搭載ですから、臨場感のある大画面と音声でお楽しみ頂けますよ!!」
「あ、あと…録画を頼む」
「もちろん解ってますよ!! 最高画質で永久保存しておきます!!」
 言いつつ、ヘクセンは慎重に浴室の扉を5ミリ程開き、新装備『ラドシュパイヘ』を浴室の中へと滑らせた。
「さあ!! じっくり拝ませていただきますよ…!? マスター!!」
「よし、頑張れ、ヘクセン」
 二人の期待を背負い、『ラドシュパイヘ』は、まず、妃依の…顔を捉えていた。しかも、真正面のどアップだ。入って早々、『ラドシュパイヘ』は妃依に掴まれてしまったらしい。
『…覗かないでくださいと、あれほど念を押したはずなんですけどね』
 死刑宣告のような妃依の声が、聡の耳に臨場感たっぷりのサラウンドで響き渡った。
 その直後、『ラドシュパイヘ』は先端を握り潰され、映像は砂嵐と化した。
「なななな!! 何故こうもあっさり!! ばれたんですかぁっ!!」
 ヘクセンは逃げようとしたが、『ラドシュパイヘ』のコードは案外もろかったので、掴まれている以上、無理に逃げることが出来なかった。
『…仕切りが曇りガラスなんですから、人影くらいなら見えますよ』
 冷静に考えれば、最初に気が付くべき事であった。が、それにすら、興奮気味だった二人は気が付かなかった。
「ひ、ひよちゃん…俺は、覗く気なんて無かったんだ…ヘクセンにそそのかされて…」
「ああっ!! 全てを私に押し付ける気ですか!? 卑怯者!!」
 お互い曇りガラス越しなので、表情は全く伺えなかったが、今の妃依の表情が昏い怒りの無表情であることは、二人には容易に想像がついた。
『…この際、動機なんて関係ありませんよ…覗こうとした、それが全てです』
 次の瞬間、一瞬にして開け放たれた扉の向こうから、何かが飛び出したのは確認できたが、そこで、聡とヘクセンの記憶は途絶えていた。


(…風が気持ち良い…ちょっと、寒いけど)
 覗きを撃退した妃依は、ベランダに出て涼んでいた。
 今着ている借り物のパジャマは、サイズが合わなくて裾を引きずっていた。そもそも妃依と琴葉の身長差は20cm近くあるので、仕方ないと言えば仕方ない。
「…琴葉先輩、どうしてあんなにスタイルいいんだろ…」
 長さを余した袖をユラユラとさせながら、妃依は自分の胸を押さえた。結局、借りた下着は着けていない。大き過ぎたから。
「…深く考えないほうがいいのかも…」
 こういう方面のネタは、いくら考えてもドツボにはまってしまうだけだ。過去何回、このテのネタで紀美江に馬鹿にされた事か。
「…ああ、思い出したら…何か、腹が立ってきた」
 大体、紀美江のだって、大きい、とは言えないのだ。まあ、確かに、身長が10cm程負けているのは事実だが。
「…はぁ…琴葉先輩、背を大きくする機械とか持ってないかな…」
 もちろん冗談のつもりだったのだが、妃依は、自分が如何にヤバイ事を口にしているか気が付いていなかった。
「もちろん、あるわよ」
 不意に隣から琴葉の声がした。
「…こ、琴葉先輩…いつの間に」
 動揺する妃依の隣に、忽然と琴葉が出現していた。
「ずっと居たのだけれど、気が付かなかったのかしら」
「…確かに誰も居なかったはずなんですけど」
 ベランダに出た時に、誰かが居れば流石に気が付く。
「まあ、ちょっと、オプティカル・カモフラージュを使って姿を消していたから、気が付かなくても仕方ないわよね」
 そう言って、琴葉は胸に付けた箱型の装置のスイッチを入れた。すると、周囲の風景に、すぅっ、と溶け込むようにして、琴葉の姿は見えなくなってしまった。
「…忍者ですか、琴葉先輩は」
「忍者と言うよりはネコ型ロボット…いえ、カラクリ好きの小学生って所かしら」
 姿は無く、ただ声のみでのたもうた。
「…よく、解りません」
 危ない香りのする話だという事は理解できたが。
「それより、背を大きくする機械の事だけど」
 再び姿を現し、琴葉が切り出した。
「…ま、真に受けないでください…ただの独り言ですから」
「独り言、ね」
 琴葉がいやらしい笑みを浮かべる。


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