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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-17

 五分後。
「で!! 弟様!! 覗かないんですか!?」
 気を取り戻した聡に、ヘクセンがテーブルに身を乗り出して、けしかけ始めた。
「覗かない」
 あくまでも視線を漫画本へと落とし、聡が答える。
「それは!! やはり、報復を恐れての判断ですか!? マスターの一撃は効きますからねぇ!!」
「いや、そういう訳じゃないけどな…それもある」
「そうですか!! ふっふっふ!! マスターの入浴を覗きたいけど堂々と覗くのは無理!! そんな時は私にお任せですよ!! 弟様!!」
 バンッ、とテーブルを激しく叩き、妙に興奮気味に力説する。
「どうしてお前が張り切ってるんだよ…」
「ええ!! バージョンアップの際、追加された装備を使ってみたい!! それが私の本音です!! つまり、マスターで実験したい!! それが私の本懐です!!」
 考え方がろくでもない。姉さんも、こうなる事が解っていてバージョンアップなんてしたのだろうか…。
「んー…いや、でも、確かに、な…見たくない訳じゃない、けどな」
「おやおや!? 心惹かれてます!? 弟様も好きですねぇ!! この!!」
 ヘクセンはいやらしい表情で、聡の腕を小突いた。
「う…うるさいな…」
「いいですともいいですとも!! 弟様の気持ちは良く解りますよ!! はっはっは!! さあ、いざ浴場へ!!」
 聡の腕をぐいっと掴み、ヘクセンは勢い良く立ち上がった。
「まま、待て待て!! やっぱりそれは…マズイ!!」
「肝が小さいですねぇ!! ふぅ!! 解りました!! 見せてあげますよ!! 新装備を!!」
「ほ、ほーう…」
「さあ、コレが私の新装備!! 『ラドシュパイヘ』!!」
 ヘクセンが指を突き出して、その指の先端を開き、レンズを露出させた。つまるところ、小型カメラだろう。
「いや…新装備って、コレか?」
「そうですが!? コレさえ使えば!! 浴場の中の様子を余すところ無く…!!」
「指の先端に付いてるんじゃ、流石に見つかると思うぞ?」
「甘いですねぇ!! コレを作ったのは琴葉様ですよ!? そんな欠点があるわけ無いじゃないですか!!」
「じゃあ、どうするんだよ」
「伸びます!!」
 ヘクセンは、指の先端からレンズを先端とした細いコードを伸ばした。生き物の様にうねっている。
「気色悪いな…」
「そんな感想は求めていません!! 『凄いぜ!!』とか『惚れるぜ!!』とか、もっとあるじゃないですか!! 言う事が!!」
「俺、そういうキャラじゃないし」
「ふ、フン!! そんな弟様には、盗撮映像を見せてあげません!! せいぜい指をくわえて妄想してればいいですよ!!」
 機嫌を損ねたようだ。損ね方がオカシイ気がするが。
「あー、はいはい、すげー、ヘクセンすごいぜ、まじすげー、ほれるぜ」
「いやぁ!! そうですか!? あっははははは!! そこまで言われたら悪い気はしませんねぇ!!」
 こいつも悠樹レベルか…。
「でわ!! マスターの痴態を舐める様に観賞しようではありませんか!!」
「おー…」
 聡は、半ば強制的にヘクセンと共に妃依が入浴中の浴室へと向かったのであった。


「なあ、ヘクセン」
 脱衣所の陰に、こそこそと座り込んだ聡とヘクセンは、盗撮(最低)の準備を進めていた。
「何ですか!?」
 シャワーの音が響き渡っているおかげで、多少の物音はかき消されていたが、二人は念のため小声で話をしていた。
「お前はいい。そのカメラで見れるんだろうからな…しかし、俺はどうすればいいんだ?」
 ここまで来たら…と、聡は腹を括っていた。覗く気満々だった。
「いやはや!! 私がそれを考えていなかったとでも!? ふっふっふ!! 舐めないでくださいよ!! ささ!! コレをお使いください!!」
 と言って、ヘクセンがスカートの中から取り出したのは、ヘッドマウントディスプレイだった。


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