祈り-6
「やっぱりうちの子が一番美人や……」
三田村は、新生児室の窓に額をぴったりとくっつけたまま、ニヤッと笑って一人ごちた。
ガラス越しに見える赤ん坊の顔は、ふにゃふにゃしていてどれもまだ人間になりきっていないようにさえ見えたが、「三田村様」と書かれた小さなベッドに寝ている赤ちゃんだけは、とびきり輝かしく見える。
そんなふうに自然に思える自分が嬉しかった。
自分の子供をかわいいと思える。
他人から見れば当たり前のことなのだろう。
しかし、そんな日常のささいな心の動きが、三田村にとっては一つ一つ綱渡りのように危うく、少なからぬ緊張感を伴う。
これは自分の中の弱さとの戦いだと思う。
赤ん坊を見ているときりがないので、新生児室を後にして、病室のほうへとむかう。
慶子は初産ということもあってなかなか産道が開かず、かなりの難産だった。
出血もかなり多かったため、出産して三日ほどはずっと点滴を打ち続けたまま寝たきりの状態だったが、今日からは食事も少しとれるようになり、授乳もしているという。
「……慶子?」
そっと病室の扉を開けると、慶子はベッドを少し斜めに起こした状態で、窓の外をじっと眺めているところだった。
その横顔には、出産以前の慶子にはなかった「強さ」と、これから起こる全ての困難を受け入れる静かな覚悟がみなぎっているように見えた。
「慶子………」
もう一度名前を呼ぶと、やっと気がついたのか、こちらを振り向いてくしゃりと柔らかく顔をほころばせた。
「真ちゃん………」
「もう、起きててええんか?」
「うん。入院中に少しでも早くおっぱいの飲ませ方習っときたいし……」
「ああ……そか。そやな」
変な意味ではないのはわかっているが、あの貞淑な慶子の口から、「おっぱい」などという言葉が当たり前のように出るのが不思議に感じられてしまう。
出産した途端、慶子ばかりが急に母親らしくなって、自分だけがおいてけぼりを食らったような、軽い焦燥感を感じた。
「………赤ちゃんの血液型……わかったよ」
不意に慶子がそう呟いた。