それぞれの行き着く場所-6
社内を揺るがす衝撃的な人事異動が発表されたのは、それから数日後のことだった。
本社の店舗建設本部長であった高橋が、北関東物流センターのセンター長に任命されたのだ。
「センター長」という肩書きはあるものの、単純に言ってしまえばそれは在庫管理以外ほとんど仕事のない地味な役職で、要は島流しに近いあからさまな降格人事であることは誰の目にも明らかだった。
過去に人事部長も経験し、次期常務の呼び声も高かった大物の突然の左遷に、社内は大変な騒ぎになった。
さらにその衝撃人事の陰に隠れるようにひっそりと、K支店の内部でも、数名の人物に同じような降格人事が言い渡されていた。
支配人である中森が本社総務課の係長に、そして坂田、上野、辰巳の三名は、社内でも最も過酷な労働環境と言われている、生鮮加工センターへの勤務が命じられたのだ。
その顔ぶれから、K支店の内部では「坂田会の被害者の誰かが人事部に直接被害を訴えたのではないか」という噂が広がっていた。
しかし、過去に坂田会を訴えようとした社員が皆ことごとく失敗し、一人残らず潰されてきたというのはK支店では有名な話であり、そこまでのリスクを負ってわざわざ行動を起こしそうな人物というのは、ちょっと想像がつかなかった。
「……一体……誰が……」
事務室前の掲示板に貼り出された人事異動者名簿を見ながら、あいりは信じられない思いで一杯だった。
「しかし―――すげぇことになったな……」
「――――?」
背後から急に話し掛けられ、驚いて振り向くと、そこにはメンズのフロア主任である岡本が立っていた。
「岡本主任―――」
「これって……川瀬さんが亡くなったのと何か関係あんのかなぁ?」
「さ……さあ……」
探りを入れるような聞き方だったが、もちろんあいりにそんなことがわかるはずもない。
「うちの会社のセクハラは、今まで人事部に直接訴えても全然ダメだったのに………どういういきさつがあったんだろうな」
これまで実際に潰された社員を何人も目の当たりにしてきた岡本は、今回の人事異動に心から驚きを隠せないようだった。
「でも―――よかったな。藤本、最近坂田たちに目ぇつけられてただろ?しつこく坂田会に誘われてたんじゃないのか?」
「……え……あ……あの……」
つい先日の資材庫での一件を思い出し、返答に困って曖昧にうつむくと、岡本は少し呆れたような笑みを浮かべながら軽くため息をついた。
「あのさ…………前から言おうと思ってたんだけど…………あいりちゃんて、わかりやすすぎるんだよな――――」
「……えっ?」
「なんていうか……報われない片想いをしてる女の子ってさ……男から見ると………隙だらけなんだよ」
「……報われない……」
ハッとして思わず岡本を見つめ返す。
「あいりちゃん。………三田村、な。―――会社やめることになった」
「えっ?!」
予想もしていなかった情報に耳を疑った。
「ど…どうして……まさか……ク…クビ……」
一度とはいえ、三田村も坂田会に参加している。彼にも坂田たちと同じように処分が下ったのではないかという心配が頭をもたげた。