それぞれの行き着く場所-2
『……こんなこと……ダメ……ダメよ……』
やっと悪夢のような凌辱の日々から解放されたというのに、自らこんなことをしていては意味がないではないか。
こみ上げてくる背徳感と、それをかき消さんばかりの欲情の狭間で苦しみながら、あいりは濡れた秘裂に自らの中指をぬるりと滑り込ませた。
「……んっ!…あぁっ…ハァッ……ハァッ……」
既に柔らかく蕩けてしまった自分自身の内部。
飢えた淫獣に魅入られてしまった肉体には、指一本の刺激ではとても物足りない。
『も……もっと……』
衝動のままに指を二本、三本と増やしていくにつれ、堰を切ったようにこみ上げてくる劣情に、理性がぐしゃりと押し潰されていくのがわかった。
「あっ……あぁっ……んああああぁっ!……」
少しでも早く極みに辿り着こうと、中の指をせわしなくピストンさせながら、親指でクリトリスを集中的に攻めたてる。
痛いほどの刺激に身体がビクビクと痙攣するものの、それはイメージしているような究極の快感には程遠かった。
『違う……私が欲しいのは――――』
もっともっと苛めるような、
もっともっと焦らすような、
もっと、もっと………
いやらしい愛撫―――。
あいりは挿入していた指をゆっくり引き抜くと、きつく目を閉じ、充血したラビアをねっとりと撫で回した。
無意識のうちに、川瀬の指使いを真似ようとしていた。
『自分から欲しいって言えよ……』
耳の奥で聞き慣れた男の声がウワンウワンと響き渡る。
その途端、身体中の神経が条件反射のように研ぎ澄まされた。
「あっ……あぁっ……主任……っ……い……やぁっ……」
陰唇を左右に押し広げながら、クリットの周辺を執拗にこねくり回す。
一番感じやすい部分をわざと避け、ギリギリの場所ばかりに徹底的に刺激を与え続ける意地悪な愛撫。
一番嫌いだったはずのその卑劣な手技が、今ではあいりの肉体を満足させられる唯一の手段になっていた。
川瀬が死んだと聞いた時、まずあいりの胸に浮かんだのは「また騙されるのではないか」という猜疑心だった。
川瀬は、自分を陥れるためならどんなことでもする―――。
何度も騙され絶望を味あわされた歪んでしまったあいりの心には、悲しいという感情も、嬉しいという感情も、不思議なほど起きなかった。
しかし、こうして肉体の奥底から沸き上がる性欲に思考の全てを支配される時、あいりの心に思い浮かぶのは、何故か三田村ではなく、川瀬昭彦ただ一人なのだった。
『ふん……こんなに濡らして………お前はただのメスだな――』
川瀬の嘲るような言葉が頭をよぎる。
『ただの……メス……』
確かに――――川瀬の言う通りなのかもしれない。
今……私は……
ただのメスだ―――。
「あっ……あぁん……!」
いつしか上半身は前に倒れ、あいりは四つん這いのような姿勢になっていた。
はしたない姿を後ろから見られていることを想像しながら、濡れた陰唇をひくつかせて尻を高く突き出す。
「……あぁっ…はぁああっ……」
悲鳴にも似た喘ぎ声を上げて、あいりが自らのアヌスに指を伸ばそうとした時――――鍵がかかっているはずの扉が、突然バッと開いた。
「ひっ……だ…誰っ………!」