【ロケットパンチを君の胸に♪】〔第二部・陰謀編〕-1
「鈴美ちゃん、一緒にお昼ご飯、食べないか?」
アットホーム秘密結社【フェアリー☆テール】の、秘密基地で…金髪を腰まで伸ばした、美形で黒マント姿のファースト大幹部・ペパーミント伯爵が言った。
「はぁ…お昼ご飯…ですか」
通路に設置された、カップ式の飲み物販売機で、出てきたコーヒーを飲みながら…赤いレザー皮の幹部服を着た、幹部候補の鈴美は、心ここにあらず…と、いった感じで返事を返した。
その様子をペパーミント伯爵の、隣に立って眺めていた…怪奇・クモ女が、そっとペパーミント伯爵の耳元で囁く。
「ねぇ…変でしょう、お姉さんの恋人が、フェアリー☆テールの戦闘要員だったってわかってから…ずっと、この調子なんですよ」
一見すると、ブレザーの制服を着た普通の女子高校生に見えるが、その正体は…毛むくじゃらの、おぞましいクモの怪人だ。
「鈴美ちゃんが、落ち込む気持ちもわかるけれど…こればっかりは、首領が決めたコトだからなぁ…」
「わかっています」
鈴美は、謁見の間で見た、フェアリー☆テールの首領──【水槽の中を泳ぐ、人間大のクリオネ】の姿を思い浮かべていた。
アットホーム秘密結社【フェアリー☆テール】のリス怪獣『ミルフィーユ』と、戦慄地球防衛軍【紅い幻魔団】の怪ロボット[ヨルムンガルドβ]の戦いに、ハイキング中の…鈴美と姉の涼華、それと姉の恋人の龍彦、さらに龍彦の弟で…中学生の翔が巻き込まれて、崖下に転落した事故で…瀕死の重体だった鈴美は【フェアリー☆テール】に、よって改造手術を施され…一命を取り止めた。同じく助けられていた、姉の恋人の龍彦は、軽傷だったのと適性検査から…首領の判断で、戦闘要員『へ組の二十番』になっていた。そのコトは鈴美の心の中で、大きな負担となっていた。
(あたしみたいなのが…悪の幹部になっちゃっても…いいのかな?)
と、真剣に鈴美は、悩んでいた。
「お姉ちゃんと、翔くんは敵[戦慄地球防衛軍]に拉致されたんですよね…その後の消息は、わかりましたか?」
鈴美の問い掛けに、ペパーミント伯爵は首を横に振る。
「残念ながら…敵の内部機密を探ろうにも、なかなか守り固くてね…わかったら、すぐに鈴美ちゃんに知らせるよ」
「そうですか…」
鈴美は、姉と翔の安否を気づかった。
「鈴美さーん、元気出してください!」
クモ女が、励ますように鈴美の肩にポンッ…と、手を置いた。
「立派な悪の幹部になるためには、スタミナも必要ですよ…一緒に、ご飯食べて元気だしましょう♪今の悩んでばかりいる鈴美さんなんて、鈴美さんらしくないですぅ…」
「ありがとう…悪の幹部が沈んでいたんじゃあ、組織の士気にも影響しちゃうわよね…なんか、怪人に幹部が教えられちゃったな…うん、みんなで一緒にご飯食べよう…」
ペパーミント伯爵も、鈴美の肩に手を置いて、静かにうなずいた。
美しい光景だった、ペパーミント伯爵は首領が悪の幹部として鈴美を選んだのは、正解だったと痛感しながら。
また一歩…鈴美は悪の幹部候補として、成長したな…と思った。
三人は、フェアリー☆テールの食堂にやってきた。ちょうど、お昼時なので…食堂の食券売り場の前には、黒い全身タイツの戦闘要員や、怪人たちが順序良く並んで…食券を買い求めていた。
食堂内には、フェアリー☆テールの放送部が、務める【お昼の放送】が流されていた。
『最初に首領からの、お知らせです…最近、組織内で風邪が流行っているので、作戦から帰ったら…手洗いと、うがいをするようにとのコトです…では、お昼のリクエスト曲、最初の一曲は…加工食品と、愛玩動物と、歴史上の人物の合成怪人・ナマハムスターリンさんからのリクエストで…』
さすがに、アットホーム秘密結社だけあって、メンタル面のケアも、ゆき届いている。
鈴美たちも、列の後ろに並ぶ…幹部と言えども特別扱いをせず、秩序を守って列に並ぶ…それがフェアリー☆テールの一般常識だった。
「みなさん、ちゃーんと並んでいるんですね…」
鈴美が、感心したように言った。
「うんっ、いいトコロに気がついたね…鈴美ちゃん」
ペパーミント伯爵の、家庭教師が生徒に教えているような、いつもの口調が出た。
「悪の組織とはいえ、組織内が無秩序だったら、統制がとれなくなるだろう…最低限のルールを守らないとね、ゴミは分別して決められた日に出すとか…喫煙は決められた場所で…とかね」
「なるほど、悪の組織も、ルールは守っているんですね…」
悪の組織というのも、なかなか奥深いと…鈴美は思った。