カオルB-3
「分かった。お母さん、やってみるよ」
「本当に!?薫ッ、ありがとうッ」
須美江は、嬉しそうに息子の肩を抱いた。
「ボク、頑張ってみるよ…」
母親の気持ちに応えようとする薫。その表情は冷めていた。
夜を迎えた。
「あの子。何かヘマをやってないかしら…」
「そんなに云ってやるな。あれも15歳だ。それなりの分別は、持ちあわせてるよ」
晋吾と須美江は、居ない娘のことを話題にして、団らんのひとときを過ごしていた。
「そんなにお姉ちゃん、悪いことしてたの?」
話に割って入る薫に、晋吾がにこやかに答える。
「おまえは、まだ小さかったから知らんだろうがな、小学校の頃までは……」
晋吾は、真由美のしでかした 過去の悪行を面白おかしく話して聞かせた。
「…さすがに、中学生になって暴力沙汰は無くなったが、今度は男子を虐めたとかで…」
それなら薫も知っている。
放課後の掃除時間。サボっていた男子生徒を注意したら云い合いになり、真由美は相手を厳しく叱責した上、誹謗まがいの言葉で罵った。
おかげで、男子生徒は泣いて学校を帰ったらしい。
「でも、あれはお姉ちゃんが悪いんじゃないでしょう?」
薫の疑問に、今度は須美江が答える。
「どちらも悪いのよ、薫」
「どちらも…?」
解らないという表情の息子に、母親は優しく説き解す。
「確かに掃除をサボった男子生徒も悪いわ。でも、それを注意して苛めた真由美にも責任はあるの」
「でも、お姉ちゃん、ボクには優しいよ」
須美江は、息子の言葉に頷いた。
「そう。注意するのも、優しくやれば相手を傷付けないの。やり過ぎれば、何の意味も無いのよ」
ようやく理解し得た薫に、笑みが戻った。
「うんッ、わかった」
「薫は、聞き分けのいい子ね」
須美江が、テーブル越しに薫の頬に手をあてる。晋吾も笑顔で、2人のやり取りに目を細める。
「薫の優しい性格は母さん似かな?」
父親の何気ない言葉のハズだった。しかし薫は、変に取り違えたようだ。