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「カオル」
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カオルB-2

「ボクも手伝うよ」

 いつもなら学校に居る時間帯だが、父親は会社、姉は合宿のために居ない。なおかつ、母親が忙しく家事に従事しているのに、自分だけのんびりしてる事に気が引けたのだろう。

 そんな息子の態度に、須美江は笑みを返した。

「ありがとう。薫はやさしいね」

 感謝の思いが口をついた。
 すると薫は、少し照れた表情をした。

「お母さん、忙しそうだから。それにボク、家事は好きだよ」

 その一言に、須美江の洗濯物を干す手が止まった。笑っていた顔からも表情が消えた。

「お母さんの手伝いは嬉しいけど、遊びに行かないの?」

 言葉を選んだ問いかけ。これ以上訊けば、息子を傷つけてしまうかもしれない。そんな、母親の思いを薫は気づかない。

「ボク、友達あんまりいないし、今は連休中だから…」

 心情を素直に語った。
 そんな息子の言葉を、須美江は“別の意味”に聞こえたのだろう。突然、不可解ともいえる提案を持ち出した。

「あのね、薫。バレーなんか、やってみない…?」
「えっ?バレーって…」
「バレーボールよ」

 思いもしなかった言葉。学校の体育以外、スポーツなんぞ関わった事が無い薫からすれば、ピンとこなかった。

 しかし、母親の顔は真剣そのものだ。

「ずいぶん前から、ご近所のお母さんから誘われてたのよ。それでね、どうかなって…?」

 懸命にアピールを繰り返す須美江。バレー・チームに入って男の子の友人が増えれば、息子の“おかしな行動”も直るのではという切実な願いが混じっていた。

「…でも。ボク、やったこと無いし」

 しかし、薫はそんな思惑に対して不安を口にする。須美江は、諭すように優しく語りかける。

「そんな心配いらないのよ。最近もね、ほらッ、嶋村くんのお母さん」
「う、うん…」

 嶋村こと嶋村直樹は、薫の同級生でありバレー・チームの選手だ。

「その嶋村くんのお母さんがね、“薫君。入ってくれないかな?”って誘ってくれてたのよッ」
「でも…ボクなんか入ったって、皆んなの迷惑なんじゃ…」
「なに云ってるの薫。お友達を作るチャンスじゃない」

(チャンス?お母さんは、お友達を作るためにバレーをやれと云うの…)

 小さな胸に、小さなわだかまりが湧き上がった。
 しかし薫は、気持ちを胸にしまい込むと、薄い笑みを母親に向けた。


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