【ロケットパンチを君の胸に♪】〔第一部・受難編〕-7
数分後…鈴美たちは、街角でポケット・テッシュを配っていた。
「悪の秘密結社、フェアリー☆テールでーす。よろしくお願いしまーす」
鈴美は、少しとまどっていた。
「鈴美さん、なに建物の陰に隠れているんですか?ダメですよ、ちゃーんと、テッシュ配りしないと…この任務、多少のバイト代、組織から至急されるんですから」
「なんか、この格好でテッシュ配るの恥ずかしくない?どうして、悪の組織がこんなコトするの?」
「PRですよ、フェアリー☆テールの存在を、世間に知らしめるための広報活動…コスプレしていると思えばいいじゃないですか」
「そ、そうかなぁ…」
秘密結社が、こんなに堂々と、存在をさらしてもいいんだろうか?と、鈴美は悩みながらも、道行く人にテッシュを配っていると。軍隊のような制服を着た、ガラの悪そうな数人の男たちが歩いてきた。
「なんだぁ、どっかで見たことある連中だと思ったら…フェアリー☆テールの戦闘員たちじゃねぇか」
ガムをクチャクチャ噛んだり…ボタンを外した制服のポケットに、両手をつっ込んだりしていて、かなり雰囲気が悪い。
「戦慄地球防衛軍の連中ですよ…今は相手にしない方がいいですよ」
クモ女が小声で、鈴美に囁いた。
「おっ!こちらさん、新しい幹部さんかい…かわいいじゃねぇか…」
戦慄地球防衛軍の一人が、鈴美に近づいて顔を眺めた。
「まぁ、せいぜい頑張って、世界征服とかの作戦を進めな…オレたちが、ぶっ潰してやるからよ」
鈴美は、その横柄な態度にムッとする。少し連中が鈴美から離れると、鈴美はクモ女に囁いた。
「怪人なんでしょう…変身して、あんなヤツらやっつけちゃいなさいよ」
「えーっ、そんなのダメですよーっ。こんな所で変身したら…あたしがフェアリー☆テールの怪人だって、バレちゃうじゃないですかぁ…」
いまさら何を…と、鈴美は思った。その時…鈴美の目に、戦慄地球防衛軍の連中に、テッシュの入ったカゴを引っ張られ、絡まれている女子戦闘要員の姿が映った。
「いいじゃねぇか…テッシュ、全部もらってやるからよ…どんな顔しているのか見せてみろよーっ」
「いやぁ…やめてください!!」
もう我慢の限界だった…鈴美が、両肩に装備された小型ミサイル・ポットを出現させようとした…その時、思いがけない事が起こった。
戦闘要員の一人が、女子戦闘要員を助けようと、戦慄地球防衛軍の隊員たちの前に、猛然と両手を広げて立ちはだかったのだ。
「ヴィーッ!」
「なんだよ…おめぇ、やるっていうのかよ」
ボカッ!ボカッ!
殴られながらも、必死に女子戦闘要員を守る、男子戦闘要員…鈴美は、たまらずに駆け寄った。
「もうやめなさいよ!大勢で罪のない…もとい罪のあるかも知れない、一人の戦闘要員をいたぶって!恥ずかしくないの!あんたたちみたいな悪人…じゃなかった、正義の味方がいるから、いつまでも世の中が良く…じゃなかった。えーと、悪くならないのよ!!」
なんだかワケのわからない、鈴美の言葉ではあったが…その勢いに、戦慄地球防衛軍の隊員たちは…。
「けっ!弱い戦闘員のクセによ…」
と、捨てセリフを残して去っていった。
鈴美は、傷ついた戦闘要員に近寄る。
「大丈夫?」
「ヴィーッ、大丈夫です…いてて」
覆面の下から、聞こえてきた聞き覚えのある声に…鈴美は、ドキッとする。全身タイツの胸のところに、小さく刺繍された【への二十番】の文字…。
「への二十番…まさか、あなた…」
鈴美は、恐る恐る覆面を脱がせる…その下から、姉の恋人で一緒に転落したはずの、龍彦の顔が現れた。
「た、龍彦さん?どうして?」
「バレてしまったか…」
苦笑いをする龍彦。
「鈴美ちゃんは、幹部としての素質があったから…首領に見い出されたけれど、オレは戦闘員程度の素質しか無くてね…」
「そんな…お姉ちゃんの恋人が戦闘員で、あたしが幹部だなんて…」
鈴美は、皮肉な運命の歯車に唇を噛み締め…同時に、戦慄地球防衛軍に対する敵ガイ心を、燃やした。
(許さない…戦慄地球防衛軍…あたしの手で、必ず…この世界を素敵な悪に染めて…世界を征服してやる!)
と…決意を心に強く刻む鈴美の姿が、そこにあった。
【第一部・受難編…完】