続・聖夜(後編)-7
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ユキオさんへ…
お手紙をいただきありがとうございました。
久しぶりに訪れたサナトリウムで、またあなたに会えるとは思いもしませんでした。懐かしかっ
たです。時間がなくて、あなたとゆっくりお話ができなかったのが、とても残念でした。
あなたは、あの頃と変わらないけど、私はすっかりおばさんになってしまいましたね。
早いもので、サナトリウムを退院してから、もう七年がたちます。私は現在、都心から少し離れ
た郊外のマンションで、ささやかな暮らしをしております。死んだ母から、ひとなみ以上の財産
を受け継ぎ、生活に不自由することはありません。
知り合いの大学の教授のはからいで、ふたたび大学での仕事を始めることができました。
月に一度ほど近くの精神科のクリニックを訪れ、診察を受けることがありますが、精神的には
自分でも十分安定した生活ができていると思っています。
ときどきネットの投稿小説のサイトに、サナトリウムに入院していたころ書き始めた稚拙な官能
小説を投稿していますが、ユキオさんには、とても恥ずかしくてお見せできるものではありませ
んね。
サナトリウムに入院した最初の頃の生活は、私の記憶のなかには、ほとんど残っていません。
それに、別れた恋人のことは、私の中でぼんやりとした幻影のようにしか残っていないのです。
私は彼をどんなふうに愛したのか…そして、私が彼に、あの頃何を語ったのか…。自分を傷つけ
る以上に、私は彼のすべてを傷つけてしまったことを、今は後悔するしかないのかもしれません。
憶えているでしょう…ユキオさんが一度だけ私に優しくキスをしてくれたあのクリスマス・イブ
の日を…。あのときのことだけは、なぜか昨日のようにはっきりと憶えています。あなたの優し
すぎるほどの腕に抱かれ、唇を重ねた瑞々しい記憶だけが、私の大切な思い出のひとつとして
残り続けています。
そして、先日、あなたと七年ぶりに出会ったとき、以前と変わらない懐かしいあなたの姿が、
ほんとうに嬉しかったです。
明日のイブの夜に、ふたたびあなたとお会いできることを楽しみにしています。もちろん、朝ま
であなたといっしょにすごせるホテルのお部屋も予約しています…。
私はユキオさんあてのメールを送信すると、静かにパソコンを閉じた。
ふと、部屋の窓を開けると、降り続いていた雪はすでに止み、散りばめられた街の光の彼方には、
澄みきった冬の夜空がどこまでも続いていた。