凌辱の果て-1
手足を縛り上げられ、冷たい床に横たわる三田村の姿は、幼い頃童話で読んだ「捕われの王子」のように見えた。
物語のラスト―――牢屋を抜け出した王子が暴君を倒し、お姫様を救い出す場面が大好きで、同じところを何度も何度も繰り返し読んだものだった。
しかし、今目の前にうずくまるこの美しい王子が、命を懸けて救い出すはずの姫は、きっと自分ではない―――。
思いもよらぬ三田村の登場は、あいりに希望ではなく、むしろ絶望感を抱かせていた。
あの坂田会の夜、三田村に見捨てられた記憶が、あいりの心に深い傷を残している。
憎いという感情はない。
ただただ、置き去りにされた自分が惨めで哀しかった。
「…あ…あい…りちゃん……」
腹を蹴られた痛みに耐えながら、三田村が苦しそうに身を起こした。
「……み…見ないで……」
これから行われるであろうおぞましい凌辱の現場を、出来ることならばこの人に見られたくはない。
ほとんど失いかけていた性に対する羞恥心が、急速に蘇っていた。
「なぁ三田村―――同じ同期でも、辰巳のほうが数倍この女のことをよくわかってるぜ!」
川瀬はそう言うと、あいりの身体を辰巳のほうへ押しやった。
「……あっ……!」
両手を縛られているせいでバランスが取れず、辰巳の腕の中に自分からもたれかかるような格好になってしまう。
「ヒヒヒ……まぁ確かにそうだよな……俺はあいりちゃんのケツの穴のシワの数まで知ってるからなぁ……ヒヒッ……」
「……い……いやっ……」
すかさず絡み付いてくる蛇のような辰巳の手。
何度か強引に抱かれた相手ではあるが、あいりは今でも、この下品な男に誰よりも強い生理的嫌悪感を抱いている。
出来ることなら指一本も触れられたくはないのだ。
川瀬はそれをわかっていて、あいりを苦しめるためだけににわざわざ辰巳を呼び出すことが多い。
「おい辰巳―――三田村に見せてやれよ。ホントの同期愛ってヤツをな!」
川瀬はそう言い捨てると、あいりが身動き出来ないように両腕を背後で捩り上げた。
「―――そうっすねぇ。じゃあひとつ、大人の付き合い方を教えてやりますか!」
川瀬が珍しく自分を認めるような発言をしたことで、辰巳はいつもより完全に調子づいている。
「部外者に見られながらってのもコーフンするもんだな……」
辰巳はゾッとするほど下品な笑みを浮かべながら、あいりの顔を自分の口元へ引き寄せた。