あばかれる闇-4
「……そ…それは……お…俺……いや…僕……の?」
ひどく動揺して言葉がまごまごしてしまう。
いや、そうしかありえない。
慶子は自分の子を妊娠したのだ。
あの最後の夜、衝動的に慶子の中に射精してしまった時のことが鮮明に蘇ってくる。
しかしそれならば………なぜ慶子は別れたいなどと言ったのだろうか。
「結婚する前提だから子供が出来ても構わない」と言っていたのは慶子のほうだったはずだ。
塚田は困ったような顔で小さく咳ばらいをして呼吸を整えると、我が子の不始末を詫びるような、申し訳なさそうな口調でこう言った。
「……それ……なんやけどな。実は、ハッキリわからへんらしいねん」
「わか……わからへんて……なんでですか?だって……僕しかありえへんでしょう?変な話、心当たりもありますし……第一……」
「――真ちゃん」
矢継ぎ早に問いただす三田村をなだめるように、塚田がぎゅっと肩をつかんだ。
「落ち着いて聞きや。それ以上のことは本人も言いたがらへんし、ワシもしつこうは聞いてへん――――でもな――」
「まさか……慶子……大阪に男がおったんですか?……せやから俺と別れて……」
「―――落ち着けって!」
腹に響くほどの大声でビシリと制されて、三田村はハッと口をつぐんだ。
「ワシの話、ちゃんと聞いてくれ――君がカッカしとったら始まらん。」
誠実さあふれる塚田の真っ直ぐな温かい眼差しが、ジッとこちらを見ている。
「……すみません……」
ギュッと目をつむって大きく深呼吸する三田村を見て、塚田は手の力をやっと緩め、再び穏やかな声で話し始めた。
「慶子ちゃんな――出張から帰ってきた次の週から急に体調崩して会社に出て来ぇへんようになってな………。長いこと休んどってん」
「慶子――会社を……ずっと休んでたんですか?」
「うん……ほんで……先週になって急に電話があってな。今度はいきなり『辞めたい』言うねん」
「………辞める?」
全ての事が初耳だった。
「電話で訳を聞いても泣いてばっかしで『辞めたい』の一点張りやし―――ワシ心配んなってな………。それから何べんも家まで訪ねて行って、話聞いて……昨日やっとのことで言うてくれたんや―――妊娠してて、父親がわからへんのやって」
「わ……わからへんて……俺やなかったら――誰や言うんです?……」
「それは……わからん。……でもな。一つだけハッキリしてるんは、慶子ちゃんは今でも君のことを誰よりも好きやねんで」
「それは―――どういう意味です?」
塚田の話には矛盾と謎があまりにも多過ぎる。
自分の子でないかもしれないならば、慶子は自分を裏切っていたということではないのか。
「真ちゃん。ええか?こっからが大事な話や。―――慶子ちゃんな、その赤ん坊、一人で産んで育てる言うてんねん」
「一人で……産んで……」
自分の知らないところで何かとんでもないことが起きている。
この数ヶ月、何も知らずにだらだらと日常を過ごしていた自分がひどく間抜けに思えてきた。