あばかれる闇-3
「――こんな場所ですみません」
タバコを吸いたいという塚田の希望で、二人は店のバックヤードにある従業員用の喫煙ルームに座っていた。
空気清浄機は一応あるものの、ニコチンが染み付いた6畳ほどの小さな部屋は、壁紙が茶色に変色し、強烈に不健康な臭いが充満している。
遠路はるばる訪ねて来た客をもてなすのにふさわしい場所とは到底言い難かったが、社員が営業時間中に店内の喫茶店などで休憩することは許されていないため、致し方がない。
恐縮する三田村に、塚田は豪快な笑顔で手を振ってみせた。
「いやいや!全然ええよ。それより――真ちゃんこそ吸わへんのに悪いな」
慶子から聞いて知っていたのか、前回の居酒屋で観察していたのか――いずれにせよ、さほど親しい間柄でもない三田村に関して、そういう些細な事をちゃんと記憶していることにドキリとさせられる。
「……いえ。全然大丈夫ですよ。……それより……話って?」
塚田という男の奥行きの広さを知れば知るほど、話の内容が気になって仕方がなかった。
この人物が、わざわざ大阪から自分に会うためだけに来たというのは、ただ事ではないという気がする。
慶子に何かあったのではないかという嫌な想像が一気に膨らんだ。
「うん……まあ……察しはついとると思うけど………慶子ちゃんのことやねん―――」
そう言ってしまってから、まだ話すべきかどうか躊躇しているらしく、塚田はポケットから取り出したタバコにゆっくりと火をつけながら困ったように眉をひそめた。
眉間にシワが寄ると、誠実そうな小さな目がますます細くなって、泣いたような顔に見える。
不精髭だらけのがっしりしたその顔は、近くで見ると外国の有名な映画俳優に似ていなくもない。
ぱりっとしたスーツを着て髪型を整えたら、この人はきっと驚くほど見違えるのではないだろうか―――。
普段メンズファッションを扱っているだけに、無意識のうちにそんなことを考えてしまう。
くわえたタバコがチリチリと燃える音までハッキリ聞こえるほどの長い沈黙の後、意を決したように、塚田が三田村のほうを向いた。
「単刀直入に言うで。―――慶子ちゃんのお腹ん中な――赤ん坊がおる」
「………は?……赤…?」
予想もしていなかった報告に、心臓がギィッと妙な音を立てた。