あばかれる闇-2
「……しゃあない……俺が悪いねんから……」
無駄かもしれないとは思いながら、慶子の携帯に一応かけてみたが、案の定すでに解約されていた。
いつもは頼りなげに見えるのに、いざという時の行動力と意志の強さは三田村が一番よく知っている。
―――そういうところも含めて、大好きだったのだから。
「……あっけないモンやな……」
もはや単なる数字の羅列でしかなくなってしまった慶子の電話番号―――。
最後の思いを断ち切るようにその抜け殻を消去した。
あんなにも大切にしていた女性だったのに、悲しみよりどこかホッとしている気持ちのほうが強い。
「……ごめんな……慶子」
深いため息を吐きながらアドレスを閉じようとした時、ふと「藤本あいり」の名前が目に止まった。
―――そうだ。
彼女に関心を持つようになってから、自分は変わってしまったのだ。
『俺……あいりちゃんのこと……本気で好きなんやろか………』
そう思い、あいりと付き合っている自分を想像しようとしたが、何故かうまくいかなかった。
坂田会の夜以来、結局あいりとも一言も言葉を交わしていない。
話したいことや確かめたいことはたくさんあるのだが、前以上にあいりのほうが三田村を避けている。
深く踏み込もうとすればするほど、遠く離れてしまう。
あいりと自分の間に立ち塞がる見えない壁。
その正体が何なのか――この時の三田村にはまだ知る由もなかった。
――――――――――――――
メンズ売り場に突然塚田が現れたのは、それから更に1ヶ月ほどたってからのことだった。
「―――よ。真ちゃん――久しぶりやな」
メンズフロア独特の、必要以上に重厚に飾り立てられた威圧的な雰囲気の中、居心地悪そうに登場した飾り気のないボサボサ頭。
「あ……ああ!塚…田さんですよね」
一度しか会ったことがないはずの相手なのに、何故かひどく懐かしい友人と再会したような感覚が込み上げた。
「いやぁ。元気そうで安心したわ。落ち込んで寝込んでるんちゃうかと思て心配してたんやで」
取りようによっては嫌味に聞こえなくもないのだろうが、この男が言うと不思議と毒気が感じられない。
初対面の時はひどく無愛想な態度をとってしまったというのに、こうして何のこだわりもなくにこやかに話しかけてくれる塚田を見ていると、あの時の大人げない自分が急に恥ずかしくなった。
「―――で?――新しい彼女とはうまいこといってんのか?」
「いやいや……まだ全然そんな相手いてませんよ!……それより、今日は仕事でこちらに……?」
慶子の近況も気になるし、あの時の非礼を詫びたい気持ちもあって、少し話がしたかった。
「あー……今日は仕事とちゃうねん―――君に、用事や」
「……僕……に?」
意外な言葉に、胸がざわついた。
「うん。―――今、時間ええかな?」
そう言って済まなさそうに軽く頭を掻いた塚田の顔は、キャラに似合わずひどくシリアスな雰囲気を漂わせていた。