肉体の取引 後編-1
陰毛を全て剃り落としてしまうと、その華奢な身体は「女」というより、まるで年端のいかない幼女のように見えた。
剃刀を当てられる直前までは泣き叫びながら激しい抵抗を見せていた慶子だったが、今はあきらめてしまったのか、ただ布団の上にぐったりとその身を横たえている。
後ろ手に手錠をはめられ、剥き出しになった恥ずかしい部分を自分で隠すことすら許されないその姿は、官能的というよりもひどく哀れに見えた。
「えらい可愛いらしゅうなったわ……」
つるつるになった割れ目を、高橋の無骨な指がゆっくりとなぞり上げる。
「……うぅっ……い…やぁっ……」
ぎゅっと太腿をすりあわせながら背中を丸め、物憂げな吐息をもらす慶子。
僅かだが、まだ抵抗する気力は残っているらしい。
「―――こういうおぼこい女のほうがかえってやらしい感じやな」
そう言いながらニタリと笑う高橋の股間は、見ているほうが恥ずかしくなるほどあからさまに勃起している。
セックスそのものよりも、女体を嬲(なぶ)りものにすることが大好きなこの男にとって、こういうロリータチックな肉体というのは、倒錯感を掻き立てられる格好の獲物なのだろう。
「あんまり男を知らんらしいが……今晩一晩でワシが全部勉強さしたるさかいな」
高橋は卑猥な声でそう囁くと、涙に濡れた慶子の顔をぐいと上に向かせ、その可憐な唇にべちょりと吸い付いた。
ぬるぬると重なりあう二人の唇。
恐らく三田村以外の男とは、キスをした経験すらないのだろう。
身体に触れられるのとはまた違う精神的な不快感に、慶子の顔が激しく歪んだ。
『衝動的な思いつきだったが………この女は想像以上にやり甲斐があるかもしれない……』
川瀬は胸の中で一人ごちて、悪辣(あくらつ)な暗い笑みを浮かべた。
すらりと伸びた色白の手脚。
豊満とは言えないが均整のとれた慶子の美しい肉体は、知的な女性特有の凜とした色気がある。
これがあの三田村が宝物のように大切に守ってきた女なのだと思うだけで、川瀬の胸にはどす黒い興奮が湧き上がっていた。
―――あの男の生きる希望を奪い、徹底的に汚し、破壊してやるのだ。
そうでもしなければ川瀬の苛立ちはおさまりそうになかった。
耳の奥に残るあの日のあいりの喘ぎ声。
自分のモノを愛おしげに受け入れながら、三田村の名前ばかりを呼ぶその姿が、川瀬の脳裏に何度も浮かんでは消える。
あいりを絶望させる目的で仕掛けた罠―――。
それは想像した以上に上手くいったはずだった。
それなのに……今や「ミタムラ」という言葉の響きを聞くだけで、吐き気にも似た嫌悪感が川瀬の中に込み上げてくるのだ。
『―――コワシテヤル―――』
この無知な女にセックスの快楽を教え込み、淫欲の虜にするのはさほど難しいことではないだろう。
自分の貞淑な婚約者が、薄汚い中年男たちの性玩具に成り下がったと知った時、あの馬鹿正直でお人よしな男がどれほど驚き絶望するか……。
それを想像するだけで、川瀬はもう射精してしまいそうなほどに昂(たかぶ)ってしまうのだった。
「慶子さん……あんたを三田村なんかじゃ満足できない身体にしてやるよ……」
川瀬はいつになく荒々しい欲望に駆られ、高橋を押し退けるようにして自分も慶子の唇に貪りついた。
「……んっ…んん……んんっ……」
慶子の鼻から漏れる生温かい吐息が川瀬の頬を掠める。
息苦しそうに薄く開いた口に素早く舌をねじ込み、唾液を流し込みながら唇の裏側を激しく攻め立てた。
――性の悦楽と恐怖を、この女の身体のすみずみにまで叩き込んでやるのだ―――稚拙な三田村のセックスなど馬鹿馬鹿しいと思えるほどに―――。
強さと硬さを変えながら歯列の裏側まで蹂躙していく川瀬の舌先。
「……んんっ……んはぁぁっ……」
初めて経験する荒々しく官能的なキスに、慶子は甘いため息のような声を漏らし始めた。