肉体の取引 前編-7
「――――あ…あの人が、こ…これを食べ終えたら……本当に……赦していただけるんですね………」
「――ええそうです」
川瀬の眼は獲物をとらえた蛇のようにギラついている。
「それ以上のことは……絶対にしないですか?」
「―――もちろんですよ――料理を食べるだけです」
「……わ……わかりました………そのかわり……早く…終わらせて下さい……」
取引に応じることを決心した慶子の目からは、ぽろぽろと苦悶の涙が溢れていた。
「――あなたは賢明な女性だ………三田村なんかにはもったいない………」
川瀬の手が慶子の頬をすうっと撫でた。
「高橋部長――――お待たせいたしました」
高橋と呼ばれた男は、煙草をゆっくりと揉み消し立ち上がると、嬉しそうにニヤつきながら慶子のほうへ近づいて来た。
「ほう………なかなか――うまそうやないか」
高橋は料理よりも慶子の身体をじっくりと眺めながら、意味ありげに呟く。
大事な部分は食材に隠されているとはいえ、ほとんど裸同然の身体の上を見知らぬ男の視線がねちっこく這い回る感覚は、それだけで気が狂いそうなほどの屈辱感だった。
「……は…早く食べて下さい……」
一刻も早くこの恥辱の取引を終わらせてしまいたい。
その一心で慶子は高橋に懇願した。
「これはこれは。えらい積極的やな」
男は実に楽しそうにニタニタと笑うと、ゆっくりと箸を取り、慶子のみぞおちのあたりに盛られた刺身を一切れつまみあげた。
「……ひっ……」
想像以上の不快感に、慶子は思わず悲鳴を漏らす。
手足は動かないが、皮膚の感覚はしっかりと残っているらしい。
つまり、抵抗することは一切出来ないのに、身体中を弄られる感触はハッキリとわかってしまうのだ。
これまで三田村以外の男に指一本触れられたことのない慶子にとって、この仕打ちは死にも値するほどの恥辱であった。
「どれ。どんな味やろな」
高橋は慶子の目をじっと見ながら、大袈裟な身振りで刺身をゆっくりと口に入れた。
まるで自分自身の身体の一部を舐められたような不快感に、慶子は思わず目を背ける。
こんなことを何回も繰り返されたら、最後には気が狂ってしまうかもしれない―――。
身体に盛られたたくさんの食材を見るだけで、気が遠くなるような気がした。
「皿がええと料理が引き立つさかい………箸が進むわ」
「………っく……あぁっ……」
次々と刺身をつまむ高橋の箸。
その度に慶子は苦悩のため息をもらした。