肉体の取引 前編-4
「彼女は――――」
爬虫類のような川瀬の目がギラリと鋭い光を放った。
「――――直美は、私の婚約者なんですよ」
「婚約……?」
予想とは違う展開に、思考がくしゃりと絡まった。
「結婚を控えた身ですから、彼女は事を荒立てる気はないと言っています―――しかし……それでは私の気がおさまらない―――わかりますよね?」
その言葉で、慶子は事態が思った以上に最悪であることを悟った。
川瀬が、再び慶子の全身を舐めるようにじっとりと眺め回す。
「失礼ですが―――三田村とはどんなセックスをされてます?」
「………えっ?」
いきなりぶつけられた不躾な質問に、慶子は狼狽し、言葉を失った。
「三田村にフェラチオをしたことがありますか?」
「……は…はっ?」
「アナルセックスはどうです?バイブを使ったことは?」
「……や…やめて下さい……」
次々浴びせ掛けられる卑猥な質問に、身体がカアッと熱くなっていく。
「一つぐらいは経験があるでしょう?三田村はどんなプレイが好きなんです?」
「…そ……そんなの……何も…ありません……」
川瀬があげつらねたどのプレイも、慶子には当然経験がなかった。
与えられる愛撫に応えるだけで精一杯で、三田村がそんなことを望んでいるかもしれないなどとは、今まで想像すらしたことがなかったのだ。
「やはりそうですか―――相手に依存するばかりのセックスでは、男は満足しませんよ」
川瀬は二人の幼稚なセックスを揶愉するように、わざとらしく大きなため息をもらした。
「……依存……」
その言葉は、今の慶子にとって最もこたえるキーワードであった。
「三田村は―――あなたとのセックスに満足していなかったんじゃないですか?」
「……そう……なんでしょうか……?」
「ええ――――だからガキみたいに……他人様のおもちゃを欲しがるんです」
羞恥心が人一倍強く、セックスに対して消極的すぎることは、自分自身でもわかっていた。
そのことがこれほどまでに三田村の欲求不満を高ぶらせ、精神的に追い詰めてしまっていたのだろうか……しかし……。
急激に頭がぼんやりして、思考がうまく働かなくなっていた。
「……あなたには今夜ここである仕事をしてもらう……あなたにはその義務があります」
川瀬が立ち上がってこちらに近づいてくる。
「……し…仕事……?」
危険だと思った時には、ぐらりと身体が回転していた。
「……い……いや……」
起き上がろうとしたが、意識が朦朧としてまともに立つことが出来ない。
「……お茶に……何か……」
言い終わらないうちに、辺りが真っ暗になり、何もわからなくなってしまった。