慶子-6
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いつもと同じ、殺風景な三田村のマンション。
大丈夫だと思いながらも、洗面所や台所に女の痕跡がないか、つい探ってしまう。
「―――俺、先シャワーかかってくるわ」
慶子の不安には全く気がつなかない様子で、三田村がいつものようにネクタイを緩めてスーツのジャケットを脱いだ瞬間、ふわり……と甘い香りが漂った。
「――何?この香り……」
思わず咎めるような口調になり、ほとんど無意識のうちに三田村のシャツの袖をつかんでいた。
「コレ……女物の香水やんな?」
「……え?あぁ……隣に座ってた人のが移ったんやろ?」
不自然に視線を背ける三田村。
何気ないふうを装ってはいるが、その目に明らかな動揺が走ったのを慶子は見逃さなかった。
「飲み会って……どんな飲み方したん?おかしない?」
慶子自身は決して選ぶことのない、熟れた果実のようなセクシーな芳香。
飲み会で同席したというレベルでは考えられない強烈な移り香は、慶子に激しいショックを与えた。
「……付き合いでゲームさせられたりとか……色々ややこしいこともあんねん。――もうええやろ?」
話を終わらせようとするようにバスルームに向かう三田村を、慶子は回り込んで引き止めた。
「ゲームって何?……何やってたん?」
「何って……色々や。別に心配せんでエエよ」
尚も手を振りほどいて逃げようとする三田村。
「ごまかさんといて………真ちゃん、もしかして浮気してるんと違う?」
「もう――ええ加減にしてくれや!」
初めて聞く三田村の怒鳴り声に、身体がいっぺんに硬直する。
「俺――ちゃんとお前んとこ行ったやん!?会社の付き合いも途中でほっつけて、お前んとこ行ったやろが!?」
「……し、真ちゃん」
思いもよらない逆切れに、一瞬言葉を失った。
いつもは誰よりも優しい三田村の眼差しが、信じられないほど激しい怒りに燃えている。
「俺………マジで心配したんやで?留守電は変なとこで切れてるし――こっちからかけても出ぇへんし――」
「――真…ちゃ……」
「俺お前のこと、精一杯大事にしてるやん?まだ足りひんの?これ以上俺にどうせぇ言うねん?!」
「……ご…ごめ……」
謝ろうと思ったが、中途半端にごまかされた怒りが空回りして、うまく言葉が出なかった。
「――セックスしたら納得するん?ヤったらええんか?」
冷たく言い放たれ、思いもよらない強い力でベッドの上に押し倒された。
「……やッ!………真ちゃ……やめ……」
起き上がろうともがいたところに覆いかぶさられ、無理矢理唇を奪われた。
「あ……ん……ッ……んんッ」
いきなり侵入してくる、野獣のような荒々しい舌。
口腔内の唾液を全て舐め尽くすような激しい接吻に、無意識のうちにギュッと目を閉じてしまう。
理不尽な行為に抵抗を感じながらも、会えない数週間ずっと待ち望んでいた愛しい男のキスに逆らいきれない自分がいる。
キスもセックスも―――慶子にとっては三田村が初めてであり、全てであった。