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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Fortsetzung zwei=-9

 十分後。将棋部部室。
 とりあえず、気を失った聡を和馬が中に運び込んだのだが、それからは四人とも何をするでもなく、通夜の様な空気の中、ただ、椅子に座っていた。
 原因は、横たわった聡の傍らで物凄い重苦しいオーラを発している妃依のせいであった。
「…はぁ」
 その顔から感情を読み取る事は出来ない。正直、目を合わせたら魂を持っていかれそうな雰囲気ですらある。
(何があったんだろ…妃依ちゃん)
 小声でも聞こえてしまうほど静かだったので、沙華は目線と仕草だけで燐に話しかけた。
(さあ…ただ、妃依ちゃんと遊佐間先輩の間に何かがあった、というのは確かなのでしょうけど…)
 それだけは、嫌と言うほど(とは言え、嫌とは言えなかったが)肌で感じていた。
「…はぁ」
「な、何が…あったんだい? 妃依さん」
 和馬が決死の思いで質問をした。
「…すごく嬉しい事と、すごく嫌な事です」
 更に空気が重くなる。
(や、ヤブヘビだったかな…?)
 和馬は沙華と燐のほうを振り返り、顔を引きつらせて泣きそうな顔をした。
(兄さんの馬鹿…)
(深刻ですね…これは)
 合わせるでもなく、四人の溜息が重なった。
 と、それを見計らっていたかのようにガラガラと部室の扉が開いた。
「おう…なんじゃ…この空気は…ゆ、遊佐間、どうしたんじゃ?」
 猛は、倒れている聡と、沈鬱な表情で黙り込んでいる四人を見て、恐ろしい想像をしてしまった。
「ま、まさか、殺人じゃなかろうな?」
「…死んでません」
 視線は聡のほうに固定したまま、妃依が答えた。
「そうか…なら、何をしとるんじゃ、貴様らは」
「…部活動です」
 それだけは絶対にありえなかった。
「いや…まあええわい、それで? 遊佐間はどうしたんじゃ」
「…私が倒しました」
「な、何故じゃ?」
「…見ていられなかったので、つい」
(な、何か、妃依ちゃんまで壊れちゃってる?)
(そのようですね…)
(もしかして、テストがあんまり良くなかったとか)
(沙華ちゃん…それは失礼ですよ…)
 その時、ドアをノックする音がした。部員ならば遠慮無く入ってくるはずなので、お客さんという事になる。
 入り口の前に突っ立っていた猛が、慌てて横に飛びのいた。それと同時に扉が開く。
「失礼します、あの、ここに聡先輩はいますか?」
 水着の上からジャージを羽織った、紀美江だった。
「…何しに来たの」
 とたん、空気の圧力が三倍になった。将棋部一同の背中に冷や汗が伝う。
「別に、あんたに用事があって来たわけじゃ無いわよ。先輩の制服、届けに来たの」
 先程の声音とは1オクターブほど低い声で言って、丁寧に折り畳んだ学ランを見せる。
「…そう、なら、それは私が預かるから、早く泳ぎに戻ったら」
「う、ウルサイ!! …って、どうして聡先輩が倒れてるのよ!?」
「…」
 ばつが悪そうに目線を逸らして黙り込んでしまう妃依。
「何よ? その反応は」
「…紀美江には関係無い」
「関係あるわよ!! 折角、先輩の制服を届けに来たのに、先輩が倒れてたんじゃ、意味無いじゃない!!」
「…何で」
「先輩に『ありがとう、紀美江』とか、言ってもらえないじゃないの」
「…夢見すぎ」
「なっ!! あんただって似たようなもんでしょう!? 第一、付き合ってるわけでも無いんだし、それこそ妃依には関係無いわよ」
「…関係は…ある」
 言って俯いてしまう妃依。
「へえ。どんな?」
「…っ」
 そんな二人の様子を見ていた沙華と燐は、
(これって…もしかして、だよね?)
(ということは…やはり…その、そういうことなのでしょうか…)
 邪推しまくっていた(あながち間違いではないのだが)。


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