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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Fortsetzung zwei=-10

「あの、君は一体、誰さんなのかな?」
 和馬が尋ねる。
「あっ!! すいません、私、水泳部の藤堂紀美江っていいます」
 紀美江は、少し声音の柔らかい感じに戻して言った。
「藤堂さん、聡に用事があるのなら、少し待ってたらどうかな? そのうち気が付くだろうし」
 とたん、妃依が和馬のほうを向き、-273℃位の視線をぶつけた。
「…副部長」
 ニュアンス的に『殺す』が百回くらい含まれたような声音で妃依が呟く。
「とっ…というのは冗談で、さ、聡は持病で寝込んじゃって今日は目覚めないだろうから、帰ったほうが良いと思うよ?」
 慌てて付け足す。言っている事がチグハグではあったが。
「そうなんですか? それじゃ…仕方ないですね」
(今ん話を信じとるのか!? やたら純粋じゃのう…)
 猛は変な所に感心してしまった。
「じゃ、じゃあ、コレ、あたしが持って来たって、ちゃんと先輩に伝えておいてよね!?」
 紀美江は横になっている聡に制服を掛けてやると、隣に座っている妃依を指差しながらそう言って、将棋部を去っていった。


「うわああああああああああっ!!」
 聡は気が付くのと同時に叫びながら、がばっと上半身を跳ね起こしていた。
 当然、将棋部の面々には驚きが伝染し、唯一、覗き込むような姿勢で隣にいて、それでも驚きを見せなかった妃依には、飛び起きた聡のヘッドバッドがお見舞いされた。
「…痛いです」
 妃依は頭を押さえて、それでもしっかりと聡を見据えて言った。
「うあ、ひっ、ひよちゃん!? ゴメン!! 大丈夫!?」
 ぶつけた聡の方には全く痛みは無かった。いつもいつも身体にダメージを受け続けているから、この程度ではくすぐったいとも感じないのである。
「…大丈夫じゃ無いです、痛いです」
 それに対して妃依は、少し涙目になって、じっと聡を見つめている。相当に痛かったらしい。
「うっ…ええと、その、ゴメン、ひよちゃん…」
 泣いている妃依など見た事が無い聡にとって、この状況は非常に気まずかった。
 と、聡があたふたしていると、将棋部の面々は無言で沙華に先導されて外に出て行ってしまった。その際、沙華が振り向いて、唇の動きだけで『お兄ちゃん頑張って…』と言い残して行った。一体ナニを頑張れと言うのか、聡はますます混乱した。
「あー、ひよちゃん」
「…何ですか」
「あのさ、怒ってる?」
「…何を、ですか」
「それは俺にも良く分かんないんだけど…」
「…怒っているかと問われれば、確かに怒ってます」
「そ、そうなんだ…それって俺のせい、だよね?」
「…半分は」
「え? 半分? もう半分は…?」
「…っ…やっぱり、全部、先輩のせいです」
 嫌な事をまた思い出してしまい、少々俯き加減でそう言う。
「そうか、悪かった、ひよちゃん…」
「…謝らないでください、何か気持ち悪いです。先輩に謝られると」
「ひ、酷いな」
「…」
 と、急に黙り込んだ妃依は、胸を押さえて息を付く。
「ど、どうしたの? ひよちゃん」
「…キスしてください」
 聡は、ブハッ!! と何かを噴出し、横になっていた長机から派手に転げ落ちた。
「な、なななななななななな、何だって!?」
「…日本語で言うと、口付け…です」
「それは知ってる!!」
「…私とじゃ、嫌ですか」
「そんな事は…」
 と言って、聡は窓の外を見る。誰も居ない。当然、部室の中には二人きり。
「無い、全然イイ」
「…そんなに張り切られても…困るんです…けど」
 妃依は静かに目を瞑って、何かを待つようにして手を胸の前で組んだ。
「えーと…じゃあ、いいのか? ひよちゃん」
 耳まで朱に染めて、こくりと頷く。
 それを合図に、聡は妃依の肩を抱き、自身も目を瞑り、妃依との距離を―――


 ―――零にした。


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