非線型蒲公英 =Fortsetzung zwei=-6
水泳部員、藤堂紀美江は、かなり上機嫌だった。
「やーっとテストが終わったんだから、今まで泳げなかった分、たっぷり泳ぐぞ!!」
学校指定水着に身を包み、プールサイドで準備体操をして、テスト期間中の鬱憤を晴らそうと、意気込んだ所まではよかったのだ。
「…ぁぁぁぁぁああああああああああ!!」
何かが凄い勢いで飛んできて、プールに墜落するまでは。
「な…っ」
開脚体前屈の格好のまま、固まってしまう。
暫くして、その墜落した何かが水面にプカリと浮かんできてようやく、紀美江は我に返った。
「え…あれって、ウチの制服…誰? って、そんなことより助けないと!!」
紀美江は綺麗なフォームでプールに飛び込んだ。あっという間にクロールで浮かんでいた生徒傍まで近づき、そこからは片手平泳ぎで、気を失っている男子生徒をプールサイドに引っ張っていった。
制服が水を吸ってかなり重たかったが、何とかプールサイドに引っ張り上げる事が出来た。
「はぁ、はぁ、しっかり、大丈夫ですか!?」
ぱしぱしと頬を叩く。反応は無い。
「そ、そうだ、呼吸は…」
鼻の前に耳を近づける。呼吸音は無い。
「ええ、ええええ、と、どど、どうするんだっけ? こういう時は…!!」
いきなり降ってきた男子が、いきなり死にそうになっていて…紀美江は、かなり動揺していた。
「やや、やっぱり…人工呼吸? うわああ、どうしよう…」
正直な話、紀美江はキスをした事が無かったので、目の前の命とファーストキスを天秤にかけてしまっていた。しかし、躊躇しているその間にも、男子の身体は命の熱を失っていく。
「…ええい!! ままよ!!」
覚悟を決めた紀美江は、男子の気道を確保、学ランを脱がせて鼻を摘まみ、半ば勢いで唇を合わせた。
教科書にあった通りに、数回息を吹き込み、胸を押す。
三回ほどそれを繰り返すと、男子が咳き込み始めた。
「あ!! き、気が付いた!!」
男子の上体を起こしてやり、背中をさすってやる。
「がはっ…はぁっ、はぁっ…」
まだ、呼吸は荒かったが、意識は取り戻したようだった。
「大丈夫ですか?」
「な、何が起きたんだ…?」
「いきなりプールに落ちてきて、気を失っていたんですよ」
男子生徒―――遊佐間聡は、ようやく自分が誰かに支えられている事に気が付いた。
「え、ええと…君は?」
「あたしは、一年の藤堂紀美江って言います。水泳部なんで、丁度ここに居たんです」
「あ…助けてくれたのか…ありがと」
ああ、そういえば、自分はこの人とキスしてしまったんだっけ…と考えると、紀美江はやたら気恥ずかしく感じた。
「い、いえ…助かってよかったですよ…あー、ええと…」
「二年の遊佐間聡…好きに呼んでくれ」
「あ、はい…先輩」