黒い魔獣-28
あの事件があった時、オーウェンは城に居なかった。
多分、ラインハルトはオーウェンが居ない時を狙って行動を起こしたのだろうが……オーウェンはキアルリアが城から出ていったと聞いて激怒したものだ。
激怒したのは自分に対して……ラインハルトが悩んでいるのがわかっていて放置していた自分に腹が立ったのだ。
どれほどキアルリアが深く傷付いたか考えるだけで胸が痛くなり、無理矢理捜しだして連れ帰る気になれずに、暫くそっとしておく事にした。
そして、偶然にも久しぶりに姿を見た時は正直驚いた。
今まで見た事が無い程、生き生きとしたキアルリアがいたのだ。
そして、そのキアルリアの何もかもを知ったうえで受け入れて、愛している男も……。
『運命かもしれぬな……』
「は?」
オーウェンの声があまりにも小さくて、聞き取れなかったアースは間抜けな声で聞き返したのだが……
バーン
「ア〜ス〜〜良かったよぉぉ〜」
「隊長〜!!」
ノックもせずに病室に飛び込んできたエンと騎士団に遮られた。
「いって!馬鹿!怪我人に何しやがる!」
抱きついたエンを引き剥がしたアースは、少し顔が赤くなっていた。
「うんうん、アースがアビィの翼を噛み千切りそうになった事とか、それが無茶苦茶痛かった事とか気にしてないからねえ〜」
『キュア』
「そうっスよ!俺らが陽炎に吹っ飛ばされたなんてのも気にしてませんから!」
「思いっきり気にしてんじゃねぇか!!謝るよ!悪かった!」
無事に戻ってきたのに恨み事を言われたアースはとりあえず謝る。
「お前なら大丈夫だと思ってたけどね」
ベルリアは安堵した声で言いながら、アースの頭を撫でた。
「心配かけたな……皆も……まあ…なんだ、協力してくれてありがとうな」
照れながら礼を言うアースに騎士団のサクが伝える。
「ああ、国王から伝言です。1ヶ月はタダ働きだそうですよ」
どうやら騎士団派遣の必要経費はアースの給料から天引きらしい。
「あの野郎……」
アースは口で文句を言いつつも顔は笑っていた。