黒い魔獣-25
「ぁ……大…丈夫……」
キャラはキツくアースを抱いて次々と体内を巡っていくエネルギーに耐える。
『グ……ウゥゥあぐ……』
暫くするとアースの方に変化が現れた。
獣の姿に人間の姿がうっすらと重なってきたのだ。
「うっああぁぁああぁぁっ!!」
いきなり強くなったエネルギーの奔流に、キャラは喉をそらして悲鳴をあげた。
胎動するような光がだんだん強くなり、呪文の詠唱がクライマックスに入る。
「!!!!」
「『ぐああぁぁ』」
キャラはあまりの衝撃に目を見開いて硬直し、アースは喉から声を絞り出すような声をあげた。
目も開けられないほどに光が弾けた後……静寂が訪れる。
アースの家の周りにはベルリアとリン、エン以外にもオーウェンや国王、騎士団も集まり固唾を飲んで見守っていた。
光が治まった魔法陣の真ん中には……2人の人間と1匹の獣が折り重なっている。
「キャラ!」
「アース!グロウ!」
リンとベルリアは2人と1匹に駆け寄り、呼びかける。
微かに息はしているが意識は戻らない。
『キアルリアは2、3日で意識が戻るじゃろう。こやつは……まあ、戻るかどうかわからんがな』
短時間で変化と分離をしたのだから生きてる方が奇跡なのだ。
とりあえず安静第一、というオーウェンの言葉に従い、2人と1匹は近くの病院に移動される事になった。
光が……見えたんだ。
真っ暗な闇に射し込んだその光を……俺はどうしても手に入れたくて夢中で追いかけた。
光が逃げるから追いかけたけど……思うように捕まえられない。
俺を翻弄するように前に、上に逃げる。
ふいに光が止まって俺を包んだ。
暖かい……懐かしい匂いがする。
『……愛してるよ』
確かに聞こえた光の声……ああ……そうだ、離さないと約束した……。
キャラ……キアルリア……お前が俺の全てだ。
「………」
ぼんやりと目を開けたアースはそっと右手をあげて、まじまじとその手を見る。
「戻った……か」
口から出た声は自分のものとは思えない程かすれていたが、まあ大丈夫だろう。
全部覚えている。
仲間に攻撃した事も、ファンからオーウェンが来た事も……。
アースは盛大にため息をついて右手を降ろす。
見馴れない天井は多分、病室のものだろうなと思いつつ体を起こそうとしたら、左手が動かなかった。