黒い魔獣-21
「アンタの相手はオレだ……」
左手で小刀を投げた姿勢のまま静かに佇むのはキャラ。
『グウウアアァァ!!』
怒りにまかせて跳びかかってきたアースに突っ込んだキャラは、足からアースの下に滑り込んだ。
アースの腹の下を滑りながら長剣を閃かせ、後ろ脚に切りつける。
『グッ?!』
着地に失敗したアースは建物の中に突っ込んだ。
体を捻って体制を整えたキャラは、血のついた剣を軽く振る。
「頭に血が昇ると周りが見えなくなるって言ったろ?」
どうやら獣になっても行動はアースのままのようだ。
建物の中からガラガラと瓦礫をかき分けて、アースがのっそり姿を見せる。
苛立たし気に尻尾をピシャリと地面に叩きつけたアースはキャラを睨みつけた。
キャラはベルトから何本かの小刀を抜き取ると、素早く投げる。
飛び退いてそれを避けたアースは、その脚でキャラに向かって走り出した。
キャラはチラッと目を走らせると、軽くジャンプして近くの木の枝を掴む。
反動をつけてクルリと回り、その枝の上に乗ると向かって来るアースを長剣を構えて待つ。
狙いは……生き物全部に共通する急所……眉間。
少し憂いを帯びた瞳に、迷いは……無い。
『グガアアァァ!!』
雄叫びをあげるアースに長剣を縦に握ったキャラが飛び降りる。
切っ先が触れる……と思われた時、突然アースが横に吹っ飛ばされた。
「!?」
キャラは地面に剣を突き立て、茫然として飛んで行ったアースを見る。
アースを吹っ飛ばしたのは、白い羽根の生えた黄金の獅子。
「オーウェン?!」
それはファンの守護神であるオーウェンだった。
「キャラ!無事か?!」
しかもその背中にはゼビア国王が乗っている。
「国王?!何で?!」
剣を引き抜いたキャラの疑問に、アースを脚で押さえ付けたオーウェンが答えた。
『まったく……ゼビアの人間は気が短い……連絡が取れぬから飛んで来たんじゃ』
ファンの城から直接連絡を取る事も出来たが、それをするとラインハルトにばれてしまう。
そうすると、ゼビアとファンの国全体の問題になる。
一応、個人的に聞かれたのだから個人的に返すのが筋だろうと、文字通り飛んでやって来たのだが、学校の場所がわからなかったので、ゼビアの城に行って国王と共に来たのだ。