黒い魔獣-10
「コラコラ」
まだ死んでない。
「ハッハッハこりゃぁ、おちおち死んでられねぇなぁ?アース」
国王は笑いながら、今度こそ部屋を出て行った。
「つうワケで死ぬなよ?」
「うっわ……王族の励ましって脅しかよ……」
もっと普通に素直に励ましてもらいたい、とアースは苦笑する。
遅くまで資料とにらめっこしていたアースとキャラは、何冊かのめぼしい本を持って自宅への道を歩いていた。
「オレが謝る事じゃないんだけど、オーウェンの事ゴメンな」
キャラが謝るとアースは軽く笑う。
「ホントにお前が謝る事じゃねぇな」
「うん。そうなんだけど……いつもはあんなじゃねえんだけどな」
守護神は国全体を見ていて、災害や戦争などの時は文字通り先頭に立って指揮したりするが、個人的な事にはあまり口を出さない。
それは王家に対しても同じで、今まで結婚などに意見した事はないのだ。
「……そやって黙ってたからライン兄ちゃんが暴走した挙げ句、お前が居なくなったんだろ?奴なりに責任感じてんじゃねぇの?」
一国の王に『兄ちゃん』は無いだろうとも思ったが、アースの言葉はもっともなので、キャラはそうなのかもなあ、と納得する。
『それにこっちを試してたっぽいな』
急に会話に加わってきた魔獣にキャラはギョッとしてアースを見た。
目は左だけが金色になっており、目が合うとバチンとウインクする。
「自分に質問ってのも変な感じだが……どういうことだ?」
人間のアースが聞く。
『あの台詞にこっち側がどう反応するか見たかったんだろ?その証拠にあの短い会話の間に思念を送ってきた』
「思念?」
『ああ。魔獣にしか使えない高速思念でな、結構いろいろ教えてくれたぞ?』
いったいどんな事を教えてくれたのか興味津々で次の言葉を待つ。
『まずは、1週間以内に俺がコイツを食い破る……やりたいワケじゃないが、どうやら止められるようなもんじゃないらしい』
淡々と話す魔獣のアースの手にキャラは自分の指を絡ませる。