仕組まれた王様ゲーム-1
三田村と直美が部屋を出て行った直後から、王様ゲームは急激に淫猥なムードを漂わせはじめていた。
「じゃあ〜1番が王様とポッキーゲーム!」
この時を待ってましたとばかりに、坂田が喜々として命令を出す。
「ホラホラ!どっちだよ1番は」
「……わ…私です……」
あいりはこれから起こることなど何もわからないまま、1番と書かれた割り箸を素直に机の上に出した。
「あーそう!じゃああいりちゃんはそっちから食べてね〜」
坂田はさりげなくあいりを壁際に追い詰め、膝の上に跨がるような格好で正面に座ると、猫なで声を出しながら嬉しそうにポッキーをくわえた。
ぬっと目の前に突き出される坂田の脂ぎった顔。
背後の逃げ場を失い、坂田にほとんど覆いかぶさられるような体勢で迫られ、あいりは思わず身体を強張らせた。
「折れたら何回でもやり直しだからねぇ」
吹き出物だらけの醜い顔が、十数センチの距離にまで迫っている。
「よーい、スタート!」
坂田はいきなりあいりの顔を両手でがっちりと押さえこむと、わざと大袈裟に唇を尖らせてポッキーをかじり始めた。
みるみる近くなる坂田の顔。
『……イ…イヤっ……!』
そう思って目をぎゅっとつむった時には、坂田のタラコ唇があいりの唇にしっかりと吸い付いていた。
べちょっとした不快な感触に、全身鳥肌が立つ。
「……んんっ!……やっ……」
慌てて顔を逸らそうとするあいりの両耳を坂田がぎゅうっと押さえつけ、ぬるついた舌先が唇をベロリと舐め回した。
「……うわ……あいりちゃんの唇柔らけ〜」
「おぉっ!マジ?!」
なにかとあいりをかばおうとする目障りな三田村がいなくなったことで、鬱積していた坂田たちの欲望が一気に溢れ出していた。
「……や…やめてください……」
酔いのせいで身体にはほとんど力が入っていないが、あいりはかろうじてか細い声で抵抗する。
「やだなぁ。唇にチョコがついてたからとってあげたんじゃん」
坂田はニヤニヤしながらようやく唇を離し、あいりを解放した。
「ハイハイじゃあ次ね!王様だ〜れだっ!」
上野が急かすように割り箸を二人に引かせる。
坂田とあいりのキスを見て一気に興奮が高まったらしく、その鼻息はケモノのように荒くなっていた。
「あ〜!やった!俺だよ!」
大はしゃぎしながら、すぐさま坂田と入れ代わりにあいりの真正面に移動する上野。
決められたシナリオ通りに事が進んでいるらしく、二人のやり方は異様に手慣れている。
「じゃあ、王様が2番に3分間抱き着く!……2番はと……あ〜!またあいりちゃんだねぇ」
あいりの割り箸を一応形式的に確認すると、上野は白々しいほど気の毒そうに眉をひそめて見せた。
当然ながら、あいりが2番を引いたことははじめから上野にはわかっているのだ。
「……ちょ…ちょっと…待って下さい……」
朦朧とする意識の中、あまりにも急激なゲーム内容の変化に、あいりはさすがに不安を感じ始めていた。
なんとか三田村が戻るまで時間を稼ぎたいと思うのだが、直美と部屋を出て行って以来、一向に帰って来る気配がない。