今夜、七星で Yuusuke’s Time <COUNT3>-14
「−−−待てよっ、椿さんってば!」
怒鳴って、やっとの思いで腕を掴み、急停止させて胸の中に掻き抱いた。
もう知った顔の見える距離ではない。
それなのに、まだ走り続けようとする椿さんを身体で遮った。
「離してよ!」
いつもの落ち着きはまるでなく、無我夢中に俺の腕から逃げようとする。
それでも放したくない、と俺は強く抱きしめるしかできない。
「離さねーよ!」
段々と静かになる椿さんの体は、微かに震えていて。
掛ける言葉がなくて黙って抱き締めていたが、ずっとそうしているわけにもいかない。
ゆっくり体を離し、だらりと垂れ下がった椿さんの手をとった。
「はい…とりあえずバッグ」
その手にそっと握らせ、包み込むように上から手を握った。
指先は白く、冷え切って生気がない。どこかに触れて支えていないと崩れてしまいそうで。
「今の…どうせ、アレだろ?」
努めて軽く尋ねてみる。
一緒にショックを受けて慰めるなんて性じゃない。
デリカシーの無い俺を怒ればいいし、八つ当たりすればいい。
自分の中で俯くより、顔をあげて泣き叫べばいい。
そう思ったんだ。
「はは……、気付いちゃった?」
情けなく笑う、その顔に。
椿さんの精一杯の強がりが垣間見れて。
バッグを抱え直す、その体ごとぎゅっと抱きしめた。
人目よりも、何よりも。
「馬鹿野郎、気付くよ」
力を込めて抱きしめること。
俺が樹里さんにしてきたように、見て見ぬふりをし続けたら。きっと椿さんだって、涙すら見せてくれなかったんだろうな。
嗚咽を漏らし、泣き出した椿さんの背中をそっと撫でる。
きっと、椿さんも俺から離れて行ってしまう。
ひしひしと感じる孤独。
それでも、それでも……。
樹里さんと別れてから、たくさん後悔したんだ。
もっと優しくすればよかった、もっと早く俺が背中を押してやればよかった、もっと、もっとって。
それを埋めるわけじゃないけれど。
俺が弱っているときに無償の優しさで支えてくれたから。
ねえ、椿さん。
俺、あんたのこと、結構好きなんだよ。
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