今夜、七星で Yuusuke’s Time <COUNT3>-11
降雪のせいか閑散とした店内。若いカップルは見当たらなく、一人の時間を好む椿さんや樹里さんのような年代の人がちらほら見受けられる。
ファーストフードとは格が違うようで。
高給取りとまではいかないが、俺みたいにその日暮らしのバイトの給料じゃ、足を踏み入れない、そんなカフェ。
目の前には、着いてそうそう慣れた様子で椿さんが頼んだミルクティーと俺が頼んだホットコーヒーが鎮座していた。
特に話すことなんてない。話題がないのだ。共通点が見当たらない。
というか、相手を知る行為は体を重ねる時間だけで。
それ以外はあまり知らない。
そうだ、初めに感じたように、人として種類が違うのだ。
解り合おうと思わない、そう感じた。そして実行した。
なのに、今こんなに胸が苦しいのは、どうしたって言うんだ。
ガキみたいじゃんか、俺。
「あれ?椿?」
ふと目の前を見れば今一番逢いたくなかった人。樹里さんが満面の笑みで手を振っていた。
それまでの俺たちは、黙々とそれぞれのカップを口に運び、俺は煙草ばかり吸っていた。会話もなく、どうしたもんかと考えに耽っていて。
だからだろう、声をかけられるまでお互いに全く気が付かなかったのだ。
「樹里……」
椿さんは驚き、表情を強張らせた。
そりゃそうだ。終わったことを知らないでいるし、幾ら俺自身が決まった相手がいない立場であっても、椿さんは樹里さんと寝る俺と自分も寝ているのだから。
「あれ、ユースケもいるし」
樹里さんが通路を挟んだ隣に座ろうとして足を止めた。
目深にかぶった帽子でも、この人には通用しない。俺は観念して、どうも、と会釈するしかない。
いつもの軽口を叩けない。
一応俺も参っているみたいだ。
浮気がばれたとかじゃなくて、あの別れの後、ここに行き着いたことを見透かされているみたいで落ち着かないから。
なにを語ればいいのだろうか。
言葉が出ないなんて初めてで、どうしたもんかと途方に暮れる。
樹里さんは吹っ切れたように話しかけてくるし、椿さんは顔色をうかがうようにさっきから俺をチラチラ見やる。
気にしてるのは解りきっている。友達のセフレだ、そんな俺とさっきまでセックスしてきたんだ、気にしない方がどうかしてる。
七星での俺はいつも饒舌で、職場と言うこともあり会話に躊躇はない。
だが、今はまるで駄目だ。
昨夜知ってしまった胸の痛みが、まだジクジクと響いている。
樹里さんを見れない。
苦しくて。
吹っ切れたその瞳に、情けない俺を映したくないんだ。