非線型蒲公英 =Fortsetzung eins=-8
「…先輩、一体何の用事だろう…」
食後、キッチンで食器を洗いながら、妃依は考えていた。
食事中、あんな事を話していたから…アレな展開になったりするんじゃないか、とか、妄想に近い想像をして、ああ…私、欲求不満なのかな…やだやだ、とか色々と考えてみたが、これというモノは浮かばなかった。
はぁ、と溜息をつく。
『ひよちゃん、後片付けだったら俺がやるのに…』
何となく、さっき、口惜しそうに先輩が言っていた言葉を思い出す。
「…先輩って、何でこういう仕事が好きなんだろう」
私って、何で先輩の事が…。
「…ああ、もう…最近コレばっかり…」
はぁぁぁ、と盛大に溜息をつく。
洗い物が終わったので、蛇口を閉める。妙に切なくなった。
「…ふう」
「あ、ひよちゃん、終わった?」
後ろから先輩が声を掛けてきたので、少しだけ動揺してしまった。
「…あ、はい…それで、用事って何ですか」
「ん、こっち、来て」
手招きをされる。コレは…やはり、アレ…なのだろうか。いや、しかし、琴葉先輩もいるのに…。
とにかく、ついて行ってみる事にした。
「ね? 凄いだろ」
「…は、い…」
正直、言葉にならなかった。
ベランダから望む夜景。蒼い闇に深く沈んだ街は、無秩序に煌々と輝き、遠く水平線を挟んだ夜空には、神秘的な星の羅列が広がっている。
「42階で良かった、と思う事なんて、コレくらいだよ。ホント」
「…」
「ひよちゃん…?」
先輩の言葉も、遠く聞こえる。
吸い込まれそうな絶景。
うじうじと悩んでいた自分が馬鹿らしく思えた。
「…先輩」
「ん? どうしたの」
「…私、先輩の事、好きです」
すっ、と心が軽くなった気がした。
「え…エエエエエエエエエッ!? ひよちゃん? 今、何て…?」
先輩が動揺してる…何だか、面白い。
「…二度は言いませんから」
意地悪く、微笑んでみた。
夜景が、眼に焼きつくように眩しく感じられた。