嫉妬と誘惑-2
顎から首筋にかけての男らしい身体のライン。
書類をめくる長い指先は、爪が綺麗に切り揃えられている。
ネクタイを少し緩めながら手元に目を落とす三田村の横顔には、営業時間中には決して見せないであろうクールな表情が浮かんでいた。
『……ふうん……こうして見るとなかなかセクシーじゃない……』
昼間の明るいライトの下では気付かなかった三田村の別の一面を見たような気がした。
「……私も今日は久しぶりにフロアに立ったから……なんだか疲れちゃった……」
意味ありげに言いながらソファに深く座り直すと、短いタイトスカートが大きく捲れあがり、ストッキングのレースとガータベルトが剥き出しになった。
反射的に、三田村の視線がほんの一瞬だけ吸い寄せられるように理可の太腿を掠めた。
慌てて目をそらしながら軽い咳ばらいをする姿が滑稽なほどわかりやすい。
『ほらね……所詮アンタもただのオスよ……』
理可は三田村の素直な反応に大いに自信を深めていた。
『……早くあたしにむしゃぶりついてくればいいのよ……藤本あいりなんか今すぐ裏切ればいい……』
三田村にわざと内腿を見せ付けるように、理可が大胆に脚をくんだ瞬間、膝の上に何かがフワリと降りて来た。
三田村がスーツのジャケットを素早く脱いで理可の膝にかけたのだ。
「……脚、見えちゃいますよ」
三田村はそれだけ言うと、再び資料に視線を落とした。
つい先刻見せた欲情のかけらは既に消え、その表情は気真面目な仕事用の顔に戻っている。
たいていの男ならここまでモーションをかければあっさり発情するはずなのに、三田村の想定外の行動に理可は戸惑った。
『……なによ……ガキのくせにカッコつけて……』
意外に手ごわい三田村の反応が理可の闘争心に火をつける。
理可はじくじくと湿り気を帯びてひくついている己の女芯を意識した。
ミニスカートの下は何もつけていないという事実を知ったら、この男はどんな顔をするだろう。
クールな仮面をかなぐり捨ててこの身体に貪りついてくるのだろうか………。
セックスの気配をまるで感じさせない清潔感に溢れたこの青年が、あの行為の時どんなふうに腰を動かし、どんな呻き声をあげるのか………想像するだけで理可の肉体は軽く欲情し始めていた。
「――あら。いいのよ暑いから」
理可は自分で膝の上のジャケットを脇へどけると、再びゆっくりと脚を組み替え、薄暗いスカートの奥を三田村に見せつけた。
三田村はさすがに目のやり場に困って頭をかき、照れたような苦笑いを浮かべて理可の顔を見た。
「……確かに……暑いっすね」
よく見ると、額に細かい汗がびっしり浮かんでいる。
極力顔には出さないようにしているのだろうが、内心激しく動揺しているのが手に取るようにわかった。
きっと込み上げる劣情と打算の間で、この男はぐらぐらと揺れているのだ。
『……可愛い男……』
もっと直接的な攻め方のほうが、こういう不器用そうな男にはいいのかもしれない。
「ねぇ……三田村……あなた、私の噂……知らないの?」
「……噂って……?」
「……権力のためなら誰とでも寝るとか……立場を利用して色んな男と寝たとか……社内の男は私のことをみんなそんな風にしか言わないわ」
三田村は出来るだけ理可の脚を見ないように努めているのか、資料に視線を落としたまま答えた。