玩具にされた女-2
入社して四ヶ月以上メンズフロアにいる三田村が、理可の噂を知らないとは考えられないのだが、この男の態度はいつまでも初対面の時と変わらなかった。
『考えてみると不思議なコ……天然なのかしら……』
どんな手強い男なのかと警戒していたが、堕とすのは思ったより簡単そうだ。
この程度の男なら、理可が準備したシチュエーションだけで自分から尻尾を振ってくるかもしれない。
「………ねぇ三田村。今日手伝って欲しい仕事があるから、閉店後残ってくれない?」
「閉店後ですね。わかりました」
屈託のない爽やかな笑顔。
たまにはこういう若い男をおもちゃにするのも面白いかもしれない。
「……じゃあ、後でね……」
そう告げた時、理可の胸は邪悪な期待にときめいていた。
―――――――――――――
空調の切られてしまった閉店後のフロアは、ムッとするような暑さが充満している。
事務所に書類を届けに行った三田村が、間もなくここに戻ってくるはずだ。
これから自分の身に起きる災難を何も知らない無防備で馬鹿な男―――。
三田村のあの純粋な瞳を思い出した時、理可の胸がチクリと痛んだ。
―――そうだ……かつて自分もあんな目をしていた時があった。
それなのに……いつから自分はこうなってしまったのだろうか……。
突然理可の脳裏に、3年前の悪夢の夜の記憶がありありと蘇ってきた。
―――あの夜。
理可は川瀬に命じられ、当時の人事部長だった高橋という男との食事に同席した。
酒席での高橋の女癖の悪さは噂に聞いてはいたが、理可は酒はもともと弱いほうではなかったし、多少のセクハラならばうまくかわせる自信もあった。
何より、そのころすでに川瀬の虜になっていた理可には、彼の命令に背くなど考えられないことだったのだ。
だがその日、理可は不覚にも完全に意識を失うほど泥酔させられてしまう。
今思えば、酒になんらかの薬を混入されていたのかもしれない。
どれくらい気を失っていたのか―――下腹部を撫でるようなひんやりした感覚で理可は目覚めた。