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卒業
【純愛 恋愛小説】

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卒業-6

卒業式の開始まであと30分に迫っていた。

教室ではみんなが色紙を回したり写真を撮り合ったりしている。

松永と能代は一番後ろの席で最後の美術展の作品を写したポラロイド写真を見ていた。

「能代の絵、間に合ってよかったな。今朝までホント心配してたんだぜ」

鴨居怜展の翌日、能代は急に作品を自宅で仕上げると言い出し、キャンバスを持ち帰ってしまっていたのだ。

これまではいつも放課後の美術室で松永と一緒に製作するのが当たり前になっていた。

しかし能代が自宅で製作すると言った時、松永はたった一言、

「そうか」

とだけ言い、それ以上何も聞かなかった。

学校では今までとかわらない日常が続いていたが、作品のことを話題にするのはお互い意識的に避けていた。


そして今朝初めて、美術室で二人は互いの作品を見せ合った。

能代の絵は、殺風景なアトリエで真っ白なキャンバスに向かう彼自身の自画像だった。

鴨居怜の作品にこれと似た絵があったな――

松永はそう感じた。しかし鴨居怜の絵と明らかに違う点があった。

それはアトリエに一ヶ所開いた大きな窓。

そしてその窓からは美しい景色が見えていた。

生命力溢れる眩しいほどの緑が、窓一杯に描かれていた―――。

「うん。いいんじゃない」

松永はしばしの沈黙の後、あっさりとした感想を言った。



「今朝、お前の作品見るまでは 間に合わなかったぁ!って泣きつかれるんじゃないかとひやひやしてたんだぜ」

「バーカ。俺はお前と違って時間にルーズじゃねぇの」


能代は笑いながら、朝はあったはずの松永の第二ボタンがいつのまにかなくなっていることに気づいた。

『誰にあげたんだろう――』

なんとなく松永本人には聞けなかった。
みどりの顔が頭に浮かんでいた。

能代の第二ボタンは相変わらず制服の上で燦然と輝いている。

なんとなくモヤモヤした気持ちが渦巻いていた。

『このまま卒業してしまっていいのか……』

ぼんやりそんなことを考えていた時、突然能代の名を呼ぶ声がした。

「おーい!能代ー。お呼びだしだぜ。2年の女の子」

クラスメイトがニヤニヤしながら手招きする。

そいつの制服もすでに第二ボタンがなくなっていた。

『2年――もしかして…』

信じられないくらいドキドキしていた。手のひらにひどく汗をかいていた。

絶対に気づいているはずの松永は素知らぬ顔で写真を見ている。

緊張しながら廊下にでてみると、見たこともない女の子が花束を持って立っていた。

ショートカットのボーイッシュな雰囲気の子だった。

「あの、私、中川貴子といいます。先輩のファンなんです。もしご迷惑でなければ第二ボタン、いただけませんか?」

能代は緊張していた自分が急におかしくなって自然に笑いがこぼれていた。

あんなに馬鹿馬鹿しいと思っていた『習慣』にこんなに振り回されている自分がおかしかった。

「駄目ですか?」

「ああ…いや……僕なんかのでよかったらあげるよ」


能代はボタンを外して女の子に渡した。




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