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卒業
【純愛 恋愛小説】

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卒業-7

女の子は嬉しそうにそれをハンカチに包み、持っていた花束を能代に手渡した。



花束のリボンはドキリとするほど鮮やかな緑色だった。



……これでよかったんだな。



能代は心の中でそうつぶやいていた。
なんだかさっぱりした気分になっていた。


―――――――――――





卒業式が終わって、能代は一人美術室に来ていた。


最後に松永が作った作品をもう一度じっくり眺めたかったのだ。


いつもと同じように今回も美しく、生き生きとした作品だった。



初めて恋をした喜びを表現した少女の像。

いつもの松永の作品と同じように、少女の髪型はポニーテールだった。



初めて能代がみどりを見た時、松永の作品に魂が宿ったようだと感じたのも、後輩の名前なんていちいち覚えてられないと言ってい松永がみどりの名前を知っていたのも――当然だったのだ。



松永はおそらく、能代よりずっとずっと前からみどりだけを見て、みどりだけをモデルにして作品を作り続けていたのだ――。

松永はいつもデッサンしないで作品を切り出していた。


きっと松永の頭の中には、みどりの姿がデッサンなど必要ないほどしっかり焼き付いていたのだ。


能代は改めて松永の作品にこめられた思いを確認した気がした。


その時 能代は少女像の足元に何か置いてあるのに気がついた。


しゃがんでみると、それは擦り切れた第二ボタンだった。


3年間毎日毎日見ていた能代にしかわからない、特徴のある傷がついていた。


松永の第二ボタンだった。



能代は松永の思いの深さに胸が締め付けられるような苦しさを感じ、しばらくそこを動けなかった。




―――――――――――





「自分で行けばよかったのにぃ。あっさりくれたんだよ。」



中川貴子は貰ってきたばかりの第二ボタンをとりだした。



「はい。ずーっと好きだったんだもんね。よかったね」



ハンカチに包まれた大切な第二ボタンを受け取り、貴子に頭をなでてもらいながら、高瀬みどりは声にならない声をあげて泣いていた。



伝えたかった思い。

伝えられなかった思い。

それぞれの思いを胸に秘めて、一つの季節が終わろうとしていた。



緑まぶしい春がすぐそこまで来ていた。







END


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